(41) 多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である


(2022/4/3 追記)

本記事の内容を修正する記事"(44) 大国主の系譜(1)"を書きました。


古事記によると大国主には次のように多くの妻がいます。

(1) 須勢理毘売
   正妻(嫡后)、須佐之男の娘
(2) 八上比売
   稲羽、子に木俣神またの名を御井神
(3) 沼河比売
   八千矛神の妻、高志国
(4) 多紀理毘売
   胸形の奥つ宮に坐す神、子に阿遅鉏高日子根神、高日売命または名は下照比売
(5) 神屋盾比売
   子に事代主神
(6) 鳥取神
   八島牟遅能神の娘、子に鳥鳴耳神

古事記では大国主の別名として次の4つを挙げています。

  • 大穴牟遅神
  • 葦原色許男神
  • 八千矛神
  • 宇都志国玉神

"(37) ヤシマシノミもオオナムチである"で書いたように
大国主の別名のひとつとされる大穴牟遅(オオナムチ)が役職名であったとすると、
大国主の妻とされる神が本当は誰の妻であったかを検討し直す必要があります。

そして、検討し直した結果、私は次のように考えます。

仮説: 多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である。

この仮説を系図にすると次のようになります。
 

[伊都之尾羽張の系図1]

 

          伊弉諾尊────┬─ヒヨルコ────┬─大国主─────┬─事代主
                  │ (えびす大神)  │ (クシキネ)   │ (クシヒコ)
豊受大神─────┬伊弉冉尊────┘ (蛭子大神)   │ (オオナムチ)  │ (恵比須)
(天御中主)    │                  │         │
         ├速玉之男              │         │
         │(高皇産霊尊)            │         │
         ├事解之男────┬─𧏛貝比賣────┘         │
         │(神皇産霊尊)  │                   │
         │        └────多紀理毘売────┬阿治志貴高日子根
         │              ┃(田心姫)   │     │
         │              ┃       └高照姫  │
         │              ┃             │
         │             櫛名田比売?────武甕槌  │
         │              ┃             │
         └───須佐之男───┬─┬伊都之尾羽張         │
             (津速産霊尊) │ │(八島士奴美)         │
                    │ │(オオナムチ)         │
                    │ │               │
             神大市比売──┘ └──────須勢理姫─────┘
             (和久産巣日)          (豊宇気毘売)
             (市寸島比売)          [大国主の妻]

 


この仮説が正しいと思う理由は以下の通りです。

理由1


出雲大社の摂社である神魂御子神社(筑紫社)の祭神は多紀理毘賣命です。
これを素直に解釈すると多紀理毘賣は神魂の子だということになります。

そして"(24) ヲバシリの父はスサノオである"で見てきたように
伊都之尾羽張はスサノオの子です。

"(5) スサノオはトヨウケの子である(イザナギとイザナミの子ではない)"で書いたように
スサノオはトヨウケの子であり神魂とスサノオは兄弟です。

すると伊都之尾羽張と多紀理毘賣とは従弟(いとこ)ということになり、
仮説が正しいとすると2人は従弟同士で結婚したことになり、
これは自然なことであると思われます。

理由2

ホツマツタエにおいて多紀理毘売の子である阿遅鉏高日子根は
伊都之尾羽張の生まれ変わりだといわれています。

"仮説: 多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である"が正しいとすると

伊都之尾羽張と阿治志貴高日子根は親子ということになり、
生まれ変わりだといわれるのは自然なこととなります。

タカヒコネ・タカヒコ【高彦根命・捨篠・阿治須岐】[ホツマツタヱ解読ガイド]
 高彦根命。
 オホナムチとタケコの第三子。 二荒神 (再生れ尊)。
 ステシノ(捨篠)・アチスキ(阿治須岐)という修辞を持つ。

 アメワカヒコの葬儀に赴いたタカヒコネを、親族はあまりに似ているので、
 アメワカヒコが生き返ったと勘違いする。
 そのことに怒るタカヒコネを、アメワカヒコの妹のオクラ姫 (二代目シタテル姫) が歌を

 詠んでなだめるが、これが縁でオクラ姫を妻とすることになる。

 馬の君 (ヲバシリから乗馬術の道奥を授かる)。
 ヲバシリの再来ということでフタアレ(再生れ) の尊名を賜り、これが二荒(日光) の地名と

 なる。
 ニニキネに乗馬を教える。子も孫も馬の君だと言う。
 奈良県御所市の高鴨神社は別名を捨篠社と言う。

理由3

ご存じのように宗像三女神は次の3神です。

  • 市寸島比売
  • 多紀理毘売(田心姫)
  • 田寸津比売

"(39) イチキシマ姫はスサノオの妻である"で書いたように
市寸島比売はスサノオの妻であると考えられます。

"仮説: 多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である"が正しいとすると
スサノオと伊都之尾羽張の親子2代に渡って
その妻が宗像三女神として祀られていることになり
これも自然なことと言えます。

理由4

氷川神社には大己貴命が祀られています。

武蔵一宮 氷川神社 [公式ページ]
 所在地: 埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1-407
 祭神: 須佐之男命、稲田姫命、大己貴命

"(35) 大宮能賣大神はクシナダ姫である"で書いたように
氷川神社には伊都之尾羽張命が祀られていたと考えられますが、
オオナムチが職名であったとすると
氷川神社に祀られている大己貴命は差し替えられたわけでなく
伊都之尾羽張を職名で祀っていることになります。

さて、"分布に特徴ある神社を考える"というサイトによると
この氷川神社の参道を延長した先には日光東照宮があるとのことです。

関東平野 「アラハバキ」神社(その3) | 分布に特徴ある神社を考える
 2014.05.17追記 日光東照宮・大宮氷川神社・子安一之宮神社
 
 大宮氷川神社の参道は完全な真北の方向になっていません。この参道を北へ延長すると

 日光東照宮があります。
 また日光東照宮の参道の方向は、ここと江戸城を結ぶ線の方向とほぼ一致します。

さて、ご存じのように日光東照宮のすぐそばには二荒山神社があります。

日光二荒山神社 [公式サイト]
 所在地: 栃木県日光市山内2307
 祭神: 二荒山大神 (大巳貴命 田心姫命 味耜高彦根命)

大巳貴命、田心姫命、味耜高彦根の親子3人が祀られています。

"仮説: 多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である"が正しいとすると
この田心姫(多紀理毘売)と一緒に祀られている大巳貴命は伊都之尾羽張ということになり、
氷川神社と二荒山神社の両方に伊都之尾羽張が祀られていることになります。

つまり、氷川神社の参道が向かっている先は二荒山神社なのだと考えるのが自然です。

結論
★多紀理毘売は伊都之尾羽張の妻である。