養父市の国家戦略特区について、国が意見を求めているという。
 もちろん、これは出来レースで、「国民から意見を聞きました」というアリバイづくりでしかないだろうが、それでも、今、私の知る限りでの意見を書いてみようと思う。

 まず、この国家戦略特区。これは「岩盤規制に穴を空ける」といわれるもので、今、ある規制の廃止を特区から特例的に認め、それを次に全国展開していくという目的のための仕掛けです。
 この農業版が養父市の農業特区。
 この農業特区で一番のポイントは、「企業の農地所有を認める」ということでしょう。
 実は、今の法律でも、企業が農地所有適格法人の要件を満たしていれば所有できる。その要件とは、簡単に言えば農業をする法人であるということ。つまり、株式会社でもその売上の半分以上が農業での売上であれば農地を取得できる。これが今の法律。
 しかし、これが「岩盤の規制」と言うことらしい。つまり、今の法律では、農業を主の仕事としない株式会社(法人)は農地を持てない。
 いや、これ当たり前でしょ。この規制をなくしたら、東京本社の大企業がカネにモノを言わせて全国の農地を買い回ってしまう。いや、全国の農地ではなく、将来売れそうな都会近くの平地の農地などを買い回る。転売することを目的にして。今は転用できない規制があるが、それもいずれなんとか解禁にして。
 なるほど、この農業特区の真の目的とはこれだったのか。
 私はずっと不思議だった。わざわざ農業特区にして株式会社が農業参入しやすくするとか言ってるけど、今の農政では、特に中山間地の農業に企業は参入してこないだろう。儲からないところに企業は来ない。なのに、どうして仰々しく「農業特区」とかするのだろうか・・・、と。
 つまり、この農業特区の本当の目的はこれだったのだ。
 養父市の国家戦略特区の検証の論文などを見ていると、参入企業の言い分として「農地所有することで地域から本気と思われた」とか「所有することでさらに意欲的に農業に関わる気になれた」などのもっともらしい検証結果が書かれているが、現実は、ほとんどがリースで行われている。所有したのはごくごく一部の農地だけだ。つまり、現実は養父市のような中山間地の農地では所有するメリットがほとんどない。だから、「どんどん企業が農地を所有する」というようなことは起こらず、問題も起こらない。
 つまり、養父市のような中山間地でまず始めて、問題なしという事実をつくり、規制を取っ払い、それを全国展開して、都会近くの農地を企業が所有して将来転売して儲けていく。
 このストーリーのための養父市での農業特区だったのか。養父市は単なるカモフラージュだったのか。どこまで、農業・農地を潰し、食いものにしていくのか・・と疑わざるを得ない。
 養父市の場合でも、特区において耕作放棄地を集めて農地として再生利用していった例もごく一部にはあるが、現実としては、それよりもはるかに大きな面積が毎年耕作放棄地になっているのではないか。つまり、中山間地の農業振興、耕作放棄対策としては、この農業特区制度では効果はないと断言できるのではないか。
 中山間地において、真の農業振興、真の耕作放棄田対策とは、それでも、日本の農地の4割を占める中山間地の農地を捨てるわけにはいかないので、効率が悪くても品質は良い中山間地のコメ、それを確保する意味でも、若者がコメ作りをずっと続けていけるような所得の補償、暮らしの保証をすること以外にないと私は断言したい。

 

日本農業新聞2022.5.2.