幼少期の自分が今の自分を見たら、どんな気持ちになると思いますか? | カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

心理学・脳科学・哲学を高校の頃より勉強し、『人間』とは何ぞやについて学んできました。
現在、会計士・税理士・心理カウンセラーとして生きていく中で、様々な人間ドラマに遭遇し、そういった経験を通して『人間』の理解を深める上で気付いたことをシェアしていきます。

前回のブログ(「脳は「誰かのために」にやる気を感じる!」)で「誰かのために」という意識がモチベーションを大きく上げることについて書いた。

今回は「自分のために」という観点からモチベーションについて書いてみたい。



「自分」という存在をどのように捉えているだろうか。

「自分」はその瞬間瞬間に存在している。

この文章を読んでいる瞬間に存在する自分も「自分」の1つである。

1秒前の自分、1時間前の自分、1日前の自分、1年前の自分、10年前の自分。

どれもすべて「自分」である。

過去の自分は将来の自分を想い、その時その時の環境の中で、将来に夢を描き、努力をし、そして生きている。

ものごころついた幼い頃の純粋無垢な自分は、無限の可能性を感じ、きらきらとした眼差しの中で将来を思い描いていた。

そして、幼いながらに考え、悩み、努力をし、将来の自分へと「自分」のバトンを渡していく。

今の自分が存在するのは数えきれないほどの過去の自分の存在によるものである。

それ故に、将来の自分は過去の自分に対して感謝し、そして責任を持たなければならない。

責任を持つとは、将来の自分を信じバトンを引き継いできてくれた過去の自分に恥じない生き方をするということである。



数年前、小学校時代のある同級生と数十年ぶりに会った。

野球部のチームメイト。

小学校時代から一目置く存在だった。

リーダーシップを発揮し、ムードメーカーでみんなから慕われる人気者であった。

私も彼を慕う一人だった。

野球の練習がない日は「自主トレ」と称して河川敷のグランドまで一緒にランニングに行った。

その帰り道、小学生ながらに彼と将来について話した。

彼の将来の話を聴くのが私はとても好きだった。

そんな友人との数十年ぶりの再会。

どんな社会人になっているのだろうと自ずと胸は高鳴った。

居酒屋で待ち合わせをし、お互いを確認すると「おー、久しぶり!」と言葉を交わす。

数十年前の面影はどことなく感じながらも、しかし彼の人相は変わっていた。

疲れ切った表情をしていた。

定職に就かず、アルバイトで何とか食いつなぐ日々を過ごしていた。

1時間、2時間、積る話に酒が進む。

心優しき性格は当時のまま。

しかし、私が引っ掛かったのは過剰なまでの謙遜と自らのことを投げやりに皮肉っぽく話す素振
りだった。

たまりかねた私は、酒が入ったせいもあり、少々感情的な口調で彼に言葉をぶつけた。

「お前は周りの人に対しては優しい人間かもしれない。でもな、さっきから聞いていると「自分」という人間に対して失礼だぞ!お前の可能性はそんなもんじゃない。」

その後、間を置いて彼に聞いてみた。

「小学校時代、みんなの憧れだったお前に問い掛けてみな。純粋無垢で将来に無限の可能性を感じて一生懸命野球をしていた小学校時代のお前が今のお前を見たら、どう思う?」

数秒の沈黙の後、彼は涙を流し始めた。

これまでにいろいろな苦労があったのだと思う。

度重なる苦労の中で、自信を失うこともあったのだろう。

何も好き好んで今の状況に甘んじているはずはない。

しかし、どんなことがあったにせよ、自分を粗末にするような生き方をしてはならない。

幼少期の自分は純粋に将来の自分を信じていた。

その純粋な想いを裏切るような生き方をしてはならない。

彼の涙は、その純粋な想いに応える生き方ができていないことを物語っていた。

それ以後、何回か彼と会った。

彼の生き方は変わっていった。

アルバイトを辞め、定職に就いた。

仕事でもリーダーシップを発揮するようになった。

そして、過剰なまでの謙遜はもうなくなり、仕事を通じて自信を持つようになっていた。



幼少期の自分と向き合うことで、心の内側からモチベーションを湧き上がることがある。

人は置かれている環境の中で「今」を生きている。

そして、様々な経験や苦労、人間関係の中で、意識や考え方が変化し、価値観として定着していく。

自分本来の価値観は後から形成された価値観に埋もれ、意識の中で感じとることも難しくなっていく。

それでも、自分本来の価値観は心の奥底に強く存在している。

その価値観に触れた時、心は敏感に反応し、胸を打ち、時に涙がこみ上げてくる。

幼少期の純粋な眼差しはその自分本来の価値観を思い出させてくれる。



「過去の自分に感謝し責任を持つ」、このテーマについて企業研修やセミナーを行うこともあるが、感極まる方も少なくない。

そして、「背すじを正される思いがした」と強いモチベーションを感じる。



経営相談においても、経営者のモチベーションとエネルギーが低い場合は、幼少期の自分と向き合ってもらい、自分本来の価値観を見出し、その価値観に沿った生き方、そして経営の在り方を見つめ直していただく。

中小企業の場合、経営者のモチベーションとエネルギーが会社の業績に比例することが多い。

経営者が自らを変えることで経営は変わり、組織のパフォーマンスも変わる。

自らを変えるためには、強いモチベーションと多くのエネルギーが必要である。

そのため、経営者のモチベーションとエネルギーを上げることが、数字として表れる業績を上げるためにも極めて重要になる。



以前、ある経営者から経営相談を受けた時のこと。

前のめりの姿勢でがつがつと経営を進めているといった雰囲気の経営者だった。

ただ、私はそのがつがつとした姿勢が心の深いところで抱えている自信のなさを露呈しているように見えた。

そこで、幼い頃の自分と向き合ってもらった。

はじめは興味本位の軽い気持ちで始めた様子だった。

「幼い頃の自分はどんな表情をしていますか。どんな気持ちを抱いていますか」

イメージを深めていく過程でだんだんと真剣な表情になっていく。

さっきまでのがつがつとした姿勢はなくなっていった。

「純粋な眼差しを持った幼い頃の自分は、今の自分を見てどう思っていますか?」

私がそう問い掛けると、彼は顔を歪め、そして涙ぐみ始めた。

つらい苦労の渦中にあることを、その表情から察した。

何としてでも経営を前に進めなければいけない、そんな事情があったのだろう。

幼い頃に持っていた自分本来の価値観は、苦労の中で生じた様々な価値観に圧倒され、知らず知らずのうちに埋没していったのかもしれない。

そんな中、幼い頃の自分と向き合うことで、自分本来の価値観に触れ、彼は涙を流した。

「いや、お恥ずかしい姿をお見せしてすみません」

そう言った後、彼は涙の理由を話してくれた。

社内にも社外にも多くのトラブルを抱え、でもそんなこといちいち気にしていられない、とにかく売上を伸ばせ、利益を出せ、という信念の下、走り続けてきた。

従業員一人当たりの担当するお客様数は通常のキャパシティをはるかに超えており、従業員に過剰な負荷をかけていた。

そのため、多くのお客様に当初お約束したサービスが提供できなくなり迷惑をかけていた。

従業員は次々と辞めていく、お客様の解約も目立つようになってきた。

心の奥底では「正しい生き方ではない」と認識していたものの、利益を出すために見て見ぬふりをして気持ちにふたをしてきた。

幼少期の自分はそんな今の自分を見て、とても悲しそうな顔をしていた。

僕はそんな大人になってしまったの?と言わんばかりに。
すると涙がこみ上げてきた。

この涙が今のやり方は「正しくない」ということをはっきり教えてくれた。

じゃ、この先どうすればいいのか、それはまだ分からない。

しかし、まずはもう少し自分と向き合ってみたいと思う。

そう話した時の彼の表情は、とても清々しいものだった。



「自分」について時系列を持った視点に気付くことで、人はエネルギーとモチベーションを取り戻すきっかけを得られる。

幼い頃の自分は自分本来の価値観を教えてくれる。

幼い頃の彼に、あるいは彼女に、胸を張って、今の生き方を語れるだろうか。

そして、これから、数えきれないくらいの将来の自分が待っている。

その将来の彼に、あるいは彼女に、胸を張って、「自分」のバトンを渡せるだろうか。

「今」の自分を悔いなく生きて欲しいと思う。

幼い頃の自分のために、そして将来の自分のために。

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