脳は「誰かのために」に感動とやる気を感じる! | カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

心理学・脳科学・哲学を高校の頃より勉強し、『人間』とは何ぞやについて学んできました。
現在、会計士・税理士・心理カウンセラーとして生きていく中で、様々な人間ドラマに遭遇し、そういった経験を通して『人間』の理解を深める上で気付いたことをシェアしていきます。

モチベーションを上げるためにはどうすればよいか。

これは経営やビジネスをする上で、永遠のテーマとも言える大きな課題であり、多くの経営者やビジネスマンは頭を悩ます。

ご相談にいらっしゃる経営者の中でも自分自身のモチベーションの維持について悩まれる方もいらっしゃる。

ゼロから新しいものを創る状況が与えられるとモチベーションが上がる人もいれば、目の前に大きな課題が生じるとモチベーションが上がる人もいる。

人から褒められるとモチベーションが上がる人もいれば、人から批判されると見返してやろうとモチベーションが上がる人もいる。

どのようなことでモチベーションが上がるかは人それぞれである。

ただ、モチベーションについて考える上で大切なことは、そのことに対して行動を起こす強い意義を見出せるかということである。

その行動に強い意義を感じるとモチベーションは自ずと上がる。

では、人はどのような時に強い意義を感じるのだろうか。



人が行動に強い意義を感じるケースとして、自分以外の誰かのために行動を起こそうとする時がある。

自分のためにすることならそこまで頑張れなくても、誰かのためにとなるといつもに増して頑張ったという経験はないだろうか。

人は自分以外の誰かのことを想い、その関係の中に行動の意義を見出した時、心が動き大きなモチベーションが湧き上がってくることがある。

そのため、経営やビジネスの場面においては、「誰のために仕事をするのか」という問いに対して明確な答えを持つことができた時、仕事に強い意義を感じ、高いモチベーションを得ることにつながる。



企業研修をさせていただく際、「誰のために仕事をするのか」について明確にするため、受講生の方々に発表していただくことがある。

受講生の方の中にはこの質問に違和感を覚える方もいらっしゃる。

「そりゃ自分のために決まってるでしょ。」

心の中でそう思った方でも、いざ発表するとなるとそうは言いにくい。

そして、「では誰のためだろう」と考え始める。



とある会社の営業研修で講師をさせていただいた時、こんな発表をしてくれた方がいた。

「私の息子は今、小学校でいじめにあっています。学校に行きたくないと言っていますが、逃げてはだめだと無理にでも学校に行かせています。そんなことを言っている自分ですが、営業成績は正直ぱっとせず、仕事から逃げ出したくなる時があり、息子に後ろめたい気持ちがあります。なので、私は息子のために仕事をしようと思います。そして、営業で結果を出して、強い人間になって息子に堂々と逃げてはだめだと言えるようになろうと思います。」

その後、私はこう質問した。

「ご自身が営業で結果を出して強くなられた姿を息子さんが見た時をイメージして下さい。息子さんはどんな顔をしていますか。」

その方は顔をゆがめ、目を真っ赤にして声に詰まりながらこう言った。

「にこっと笑ってくれています。」

研修会場の空気は変わった。

目頭を押さえる方がたくさんいた。

私もその一人だった。



また、別の会社の営業研修ではこんなやりとりがあった。

体育会系の雰囲気のその会社の営業の方々に「皆さんは誰のために仕事をしますか?」と聞いた。

一人の新人の方が手を挙げた。

「私は上司のAさんのために仕事をしようと思います。新人で分からないことが多くて、いつもご迷惑ばかりかけているので、何とかお返ししたいと、今、思いました。」

そう言われたAさんは驚いたような表情で彼の方を振り返った。

そして、「じゃ、私も。」と手を挙げた。

「私はまずはうちの部の後輩たちのために働こうと思います。今、あんな風に言ってもらってびっくりしたけど、正直、嬉しかった。後輩にあんなことを言われちゃ、上司として黙っておけないでしょ。」

研修会場は笑いに包まれた。

「じゃ、僕も!」「じゃ、私も!」

次々に手が挙がった。

「僕はB部長のために働きます!」

「僕はうちの部のメンバーの給料を上げてやれるように働きます!」

「私は所属している部のみんなのために働きます!」

会場のエネルギーはぐっと上がった。それと共に、参加者のモチベーションも大きく上がった。

その光景をオブザーバーとして見ていた社長は照れ臭そうに笑いながらも、涙ぐんでいるように見えた。



経営者からの経営相談を受ける際にも、モチベーションが低下していると感じた場合にはこの問いを投げ掛けることがある。

「ところで社長は誰のために仕事していますか。」

ほとんどの経営者は従業員のためと答える。

しかし、そう答えた後になんらかの気付きがあることが多い。

「あぁ、今そう言って気付きましたけど、なんか大切なことを忘れていたような気がするなぁ。」

「今そう言いましたけど、やっぱりできていないですね。自分のことばかり考えて仕事していました。」

こういった気付きがあった場合、気持ちを新たにし、静かにモチベーションが上がっていく。



誰かのために何かをするという行為は人の心を打つ。

映画を見ていても、誰かのために自らが犠牲になるというシーンを見ると感動を覚える。

しかし、自らのために他者を犠牲にするシーンを見ても感動を覚えることはない。

ではなぜ「誰かのために」という行為が人の心を打つのか。

脳科学者の中野信子氏は著書『脳科学からみた「祈り」』(潮出版社)の中で次のように述べている。

「地球の歴史を考えてみると、これまでに、数え切れないほどの生物種が絶滅し続けてきました。そうした中にあって、人類は、共に助け合うことで生き残り、現在の繁栄を築いてきました。 …非力な人間が唯一、他の動物種と比べて発達しているのが脳です。つまり、互いに助け合う「利他の行動」で快感を覚える脳、率先して「利他の行動」をとらせる脳。これが人類が種として生き延びてくるための唯一の武器だったのです。」

また、脳神経外科医の篠浦伸禎氏は著書『人に向かわず天に向かえ』(小学館)にて、人間学を学び「私」を退け「公」の精神を発揮することは右脳を刺激すると述べている。

他の動物種と比べると非力な人類にとって、互いに協力し合うという関係作り、チームワークが最大の武器であり、それができるかどうかが死活問題であったという歴史の中で、人間の脳は「誰かのために」という行為に美しさや感動を覚えるように進化していったのかもしれない。

互いに支え合う姿を意味する「人」という字は、正にこのことを象徴している。



私は企業研修や経営相談の中で、こういったやり取りの後、今のその気持ちを忘れないように言葉に書き留め、そして、毎日その言葉に目を通すようにお願いする。

大切なのはその時に感じた強いモチベーションを維持継続させることである。

そのため、書き留めたその言葉に毎日目を通し、その時に感じた気持ちを日々味わい直すようにしてもらう。

この継続のための仕組み創りがモチベーション維持の鍵となる。



「誰のために仕事をするのか」ということを人の前で話すことにも大きな意味がある。


人間には自身の行動、発言、態度、信念などを矛盾することなく一貫したものにしたいという心理が働く。

この心理を「一貫性の法則」という。

そのため、「言ったからにはやらねば」というモチベーションが生まれる。



モチベーションを上げるということは決して簡単なことではない。

しかし、モチベーションの低い日々を過ごすことは、人生の限られた時間を浪費するに等しい。

現状よりモチベーションを高く生きることができた場合、ビジネスのパフォーマンスも人生の可能性も大きく変わってくることは想像に難くない。

もし、モチベーションを上げるきっかけが必要と感じているならば、是非自らに問うてみてほしい。

「自分は誰のために仕事をするのか?」


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