あなたの新年の抱負は何ですか?
いろいろな会合や集まりでこの質問を受けることが多いこの時期、私も様々な経営者やビジネスマンの抱負を聴いてきた。
また、私も経営コンサルティングや経営相談の際に、必要に応じてクライアントに質問するようにしている。
熱のこもった語り口の方もいれば、少し照れくさそうに控えめにお話しされる方もいる。
明確かつ具体的な抱負を持っている方もいれば、はっきりと話せない方もいる。
新年の抱負を話すということは日本の風習であるが、これは人間のパフォーマンスを引き出すための先人の優れた知恵である。
新年の抱負を考える場合、自ずと向こう一年間の状況と、この一年で自らがどうなりたいかをイメージすることになる。
日々の生活の中でこういったイメージをする機会は決して多くはないだろう。
このイメージが向こう一年間の充実度と面白さに大きな影響を与える。
そのため、新年の抱負を語るということは、この一年の充実度と面白さを引き上げるための、貴重な機会だと言える。
抱負を言葉に表すためには、この一年で自らがどうなりたいかのイメージを具体的かつ明確にしなければならない。逆に言うと、抱負を言葉で表現することは、そのイメージを言葉で表現できるレベルにまで具体化、明確化させる効果を持つ。
言葉はその時のイメージを留め置き、その言葉を見ることでイメージを再現させる力を持っている。
そのため、言葉として残し毎日のように目に入るようにすれば、自分がなりたいイメージを継続して持ち続けることができる。
イメージを継続して持ち続けることで「そのイメージを実現するためにはどうすればよいか?必要なものは何か?」といった質問を無意識のうちに自らに問い続け、その問いの答えを探すアンテナを張るようになる。
この問いが自らの意識や行動に与える影響力は大きい。
人間は質問をされるとついついその答えを探そうとする習性を持っている。
近年、テレビ番組を見ていてつくづく思うのがクイズ番組の多さである。
バラエティ番組やドキュメンタリー番組、情報紹介番組等でも「さて、ここでクエスチョンです。」といったクイズのコーナーを設ける番組構成が多い。
テレビを見ていてクイズという形で質問されると視聴者はその答えを考えようとつい反応してしまう。
あるいは、「正解は次のうちどれでしょう?A:〇〇〇、B:△△△、C:×××。」と選択肢を与えられると、「自分ならどれを選ぶかな」とつい考えてしてしまう。
その結果、番組に対する関心が高まり、また自分の中で出した答えや選んだ選択肢が正解かどうかを知りたくなるため、正解が発表されるまではチャンネルを変えづらくなる。
このようにクイズを取り入れた番組構成が増えているのも、人間の質問に対する習性が視聴率に反映されているからではないかと感じている。
このような質問に対する習性から、同じ環境で生きていても、どのような質問を持ち、どのようなことにアンテナを張るかで目や耳に入ってくるものは違ってくる。
新しいスーツを買おうと考えている時、街を歩いていても他の人のスーツについつい目がいきがちになる。
車を買おうとしている時、車のCMが目に留まりやすくなる。
このような経験はないだろうか。
これは「どのようなスーツを買おうか?」「どのような車を買おうか?」といった質問を自らに投げかけ、その質問の解につながるヒントを無意識のうちに探しているからである。
アンテナを張ることで無意識は自動的にその質問の答えを探し続けてくれるようになる。
それ故に明確な抱負を持っている人とそうでない人とでは、その後の展開が大きく変わってくる。
『求めよ、さらば与えられん。探せよ、さらば見つからん。叩けよ、さらば開かれん。』
質問に関する人間の習性について話す時、新訳聖書のこの言葉が思い出される。
ここで是非試していただきたいことがある。
以下の3つの手順に沿ってイメージをしてみてもらいたい。
①まず今年の抱負を一つ決める。
②その抱負を達成した後、自分はどのようなアクションを起こすかについて、思い付く限りイメージする。
③そのアクションを起こした後、自分はどのようなことを感じているか、その感覚、感情もじっくりとイメージする。
例えば、今年の抱負が会社の売上を昨年比1.5倍にするということであれば、1.5倍の売上を実現できたことで得た資金をどのようなことに使うだろうか。
新規事業の立ち上げを行うのであれば、どのような事業を立ち上げるのか。
既存事業と親和性の高い事業か、従業員の適性を活かした事業か、前々から興味を持っている全く新しい事業か。
新たな人材の採用を行うのであれば、どのような人材を採用するのか。
年齢、性別、求める人物像、必要とする経験やスキル、採用後に配属する部署、担当してもらう業務などはどうするだろうか。
そして、新規事業の立ち上げ、人材の採用といった次なるステップを実行し終えた時、自分はどのようなことを感じているだろうか。
新たな展開が進んでいく光景を目の当たりにして、ワクワクしているかもしれないし、より大きなやりがいを感じているかもしれない。
そして、最後に③までのイメージをじっくり味わった後、①で決めた抱負を改めて思い出して欲しい。
おそらく、②、③のイメージをする前よりも、その抱負を達成できるイメージが明確になっているのではないだろうか。
そして、抱負を達成することに対する自信も強くなっているかもしれない。
このようにして先ほどのアンテナを強くし、抱負を達成することへのモチベーションを高めることが出来る。
また、抱負を達成することへのモチベーションを高める方法として、なぜその抱負を達成する必要があるのかについての理由を明確にすることも効果的である。
前回のコラムでも書いたが、人間は明確な理由が存在することに重要性を感じる。
何となく思い付いただけの抱負よりも、その抱負を達成しなければならない理由が明確な抱負の方が、達成するための動機は大幅に強くなる。
それから、他者に抱負を語ることも、その達成に向けての動機を更に強める方法である。
人間には自身の行動、発言、態度、信念などを矛盾することなく一貫したものにしたいという心理が働く。
この心理を「一貫性の法則」という。
人間は自身の行動、発言、態度、信念などに一貫性がなく矛盾している相手に対しては不信感を持ち、人間的な評価を低いと判断する傾向がある。
そのため、不信感を持たれないように、低い評価をされないようにと、「言ったからにはやらねば」という動機が生まれる。
ボクシングの試合の前に選手同士がリップサービスの勝利宣言をすることがあるが、このことは一貫性の法則を利用し、自らを追い込むことでパフォーマンスを高めている一つの例である。
一方で、相手の抱負を聴き出すことで、相手のパフォーマンスを高めることもできる。
人間は質問に対して答えを探そうとする習性を持つということは、質問によって相手の思考の方向性をコントロールすることができるということを意味する。
「今年の抱負は何ですか?」という質問をされた相手は、その質問に対する答えを探そうと、頭の中で今年一年に対するイメージを展開し、抱負として設定するのであれば何がよいかに想いを巡らす。
そして、そのイメージを言語化し、話す。
更に、相手が話した抱負に対して、なぜその抱負を達成しなければならないのか、述べた抱負を実現させるためには具体的にどうすればよいのか、といった質問を投げかけることで、その抱負
に対する達成動機はより強められるだろう。
先程の①~③の手順で、その抱負を達成した後のイメージを明確にもってもらってもいい。
話してもらうことで一貫性の法則が働き、少なからずとも相手の行動に変化が現れる。
言葉に書いて、常に目に入るように残しておくことで、その変化を更に強めることが出来る。
新年の抱負を話すという日本の風習にのっとった形で質問をすれば、違和感なく他者の動機付けをすることができる。
このように抱負をうまく活用することで、きっとこの一年の状況に変化が現れるのではないだろうか。
これまでの経験上、抱負を達成するための秘訣についてお話ししたい。
それは、抱負を考える際に、この一年という将来に想いを巡らす前に、『今』に感謝するということである。