感動体験を積むことが人間の理解に基づく経営の第一歩 | カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

カウンセラー会計士・税理士 藤田耕司   ~心と経営と人生と~

心理学・脳科学・哲学を高校の頃より勉強し、『人間』とは何ぞやについて学んできました。
現在、会計士・税理士・心理カウンセラーとして生きていく中で、様々な人間ドラマに遭遇し、そういった経験を通して『人間』の理解を深める上で気付いたことをシェアしていきます。

8%への消費税増税の影響は私の想像を超えるものだった。

3%の消費税の増加が消費者心理に与える影響は大きく、多くの企業の経営を圧迫している。

消費税増税後、新たにご相談にいらっしゃる方が顕著に増えてきた。

ほとんどの方のご相談の内容は、消費税増税後、お客様の足が遠のき売上が下がったため、これまでの営業スタイルを見直したい、さらには経営を抜本的に見直したいということである。

ご相談にいらっしゃった方から現場の状況についてお話を伺うと、苦悩の表情から現場の雰囲気が伝わってくる。

と同時に、どうにかこの状況を打開したいという熱意も伝わってくる。



ご相談にいらっしゃった方には、経営・ビジネスの問題の解決策を考えるに当たっては、まず『人間』についての理解を深めることが必要であることをご説明する。

経営の問題の大部分は『人間』に起因する。

それ故に、『人間』に対する理解なくして解決策を考えても、それは本質的な解決策にはなりにくい。

例えば、売上を上げたいと望まれる経営者の方はたくさんいらっしゃる。

「売る」ということは、営業活動、広告宣伝活動等を通じて、お客様の心の中に「お金を払ってでも貴社の商品が欲しい」という心理状態を創り出し、そして対価をいただくことである。

その結果を集計して数字で表現したもの、それが売上高である。

つまり、そういった心理状態をお客様の心の中に創り出すことが出来れば、自ずと売上は上がっていく。

自社商品を改良するための努力はしても、そういった心理状態がお客様の心の中にどのように形成されていくのかについて、自社で研究を進めている企業は極めて少ない。

こういった研究を進めることも、お客様という立場の『人間』の理解を深めることである。

社内の問題に関しても、従業員、役員という立場の『人間』の理解を深めることで、本質的な解決策が見えてくる。

そして、見落とされがちであるが、経営者が自分という『人間』に対する理解を深めることも、経営を展開する上では極めて重要なことである。

経営者が自分という『人間』についての理解がないままに経営を展開し、その経営の先にあることが経営者自身の深い価値観と一致していなかった場合、それは結果として悲劇を生む。

売上も利益も順調に伸ばし、会社規模も年々拡大し、上場も狙えるような会社の社長でも、「今すぐ社長をやめたい」「こんな会社にするつもりではなかった」という悩みを抱える方は少なくない。

お客様、従業員、経営者。

経営を取り巻く立場はそれぞれ異なるが、立場は違っても一つだけ共通することがある。

それは『人間』であるということだ。

長く経営をされている経営者の方は、決まって経営における『人間』の重要性を説く。

「経営は人だ」

この言葉を多くの経営者の方々から何度聞いたことだろうか。




『人間』の意思決定・行動を司っているのが脳である以上、『人間』の理解を深める上では脳の理解は不可欠であると考えている。

そのため、人間の意思決定・行動と脳に関する話をしたいと思う。

人間の脳の中で意思決定や行動を司る部分、それは大脳である。

大脳には感情の脳と論理の脳が存在する。

感情の脳は感情、気持ち、情動などを扱う「感じる脳」であり、感じが良いか悪いか、印象が良いか悪いかに基づいた判断をする。

論理の脳は言葉、計算、論理性、合理性といったことを扱う「考える脳」であり、論理的かどうか、合理的かどうかに基づいた判断をする。

人間はこの2つの性質の脳を持っている。

故に人間は感情と論理によって動く存在であると言える。

コミュニケーションによって人を動かそうとするとき、相手の印象や気持ちを良くする方向に相手の心を動かし、かつ、相手にとって合理的、論理的な意見や提案・指示を行う、という両方の要件を満たすことが必要となる。

人間としての印象はすごく良く感じるが、提案内容が合理的ではない場合、その相手と取引することはないだろう。

一方で、提案内容は合理的ではあるが、人間としての印象が非常に悪い場合、その相手と取引することもないだろう。

コミュニケーションにおいて、感情と論理、いずれの要素が欠けても相手は動いてくれない。

そのため、私は論理と感情にフォーカスした経営をすべきだと考えており、感情の「感」と論理の「理」をとって、「管理経営」ならぬ「感理経営」という経営の在り方を提唱している。

「感理」は「感」情について論理的に「理」解するという意味も持たせている。




このように人間は感情の脳と論理の脳を併せ持つ存在であるが、最終的な意思決定を行うのは感情の脳だと言われている。

人間は「感情の生き物」と言われるが、脳の機能から見てもその言葉は的を得ている。

人間が商品に感じる価値について、機能的価値、情緒的価値という言葉がある。

機能的価値とは、その商品の機能、スペック、容量、効能、効果といったことに対する価値である。

情緒的価値とは、機能的価値以外の価値であり、その商品や売り手に対するイメージ、印象、ブランド、美しさ、かっこよさ、かわいさ、といった価値である。

機能的価値は論理の脳を刺激し、情緒的価値は感情の脳を刺激する。

一般的に業界で上位の売上を誇る商品は、情緒的価値が高い。

機能的価値も高い場合が多いが、機能的価値が高くない商品であっても情緒的価値が高ければ売れているという商品はたくさんある。

一方、機能的価値が高い商品であっても、情緒的価値が低いと売上を伸ばすのは極めて難しい。

実際、独自の優れた技術で機能的価値の高い製品を創っている会社であっても、売上を伸ばせていない会社は数多くあるが、その原因は多くの場合、情緒的価値を考慮に入れていない販売戦略をとっていることにある。

このことからも感情が人間の意思決定や行動に与える影響の大きさを知ることが出来るだろう。




経営やビジネスを展開していく上で、人間の感情や心についての理解を深めることは極めて重要な要素である。

そして、理解した内容を実際に現場で活かし、お客様や従業員の心を動かし、経営やビジネスのパフォーマンスを上げていくためには、感情の脳を鍛えることが必要となる。

感情の脳を鍛えるとは、喜怒哀楽の感情をしっかりと感じ、心を動かされる感動体験を数多く積み、そういった体験に基づいて相手の心を動かすコミュニケーション能力を身に付け、そして相手の感情や気持ちを察する感覚、感性を磨くことである。

ただ、現代の日本の学校教育は、言葉、計算、論理性を重視したカリキュラムから構成され、論理の脳を鍛えることが中心となっていることから、感情や心について学ぶ機会や感情の脳を鍛える機会は少ない。

そのため、私は現代の経営者やビジネスマンは感情や心について、理論と体験の両面からもっと学びを深めるべきであると考えている。

こういった観点から読者の皆様に経営やビジネスのパフォーマンスを高めるべく感情や心の理解を深めていただくことが、本コラムの趣旨でもある。




経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏はこんな言葉を残している。

「商売とは、感動を与えることである。」

感動を与えるには、まず自らが感動を知らなければならない。

自らが感動体験を数多く積むこと、それが『人間』の理解に基づく経営、ビジネスの第一歩である。