幕末の彦根藩家老を務めた岡本黄石という人物は、大老の井
伊直弼から猛烈に嫌われていたそうです。
理由は黄石が尊王攘夷派で、勤皇詩人の梁川星厳について漢
詩を学んでいました。開国派の井伊直弼にはそれが、気に入
らないのでした。
彦根藩には、江戸から故郷へ帰る際に殿様から馬を贈られる
という習わしがあります。ところが黄石に贈られたのは、最
初は足の不自由な馬。これではどうにもならないとして、取
り換えるように要望すると、次は片方の目が見えない馬を贈
って来たということです。
さらには、井伊直弼を中心に断行された「安政の大獄」では、
黄石が慕ってきた梁川星厳が捕縛され、黄石も仕事を罷免さ
れてしまうのです。
しかしここまで陰湿極まりない嫌がらせを直弼から受けなが
らも、黄石は直弼の悪口を言わなかったそうです。
直弼が「桜田門外の変」で殺害された後も、黄石は冷静に対
処しました。水戸へ斬り込むと息まいていた藩士をなだめ、
幕府へは「直弼が暴漢に傷つけられた」との届け出をします。
こうした穏便な行動が勝海舟らに絶賛され、黄石は藩政に復
帰します。そして憎いはずの井伊直弼の息子の井伊直憲の教
育係も務め、彦根藩を立て直したのでした。