鎌倉幕府執権・北条高時は、酒に溺れて政治を顧みず、幕府
滅亡の原因を作ったとされる人物です。
或る夜、その北条高時が酔っ払い、一人で田楽を踊っていまし
た。すると10数人の田楽法師が忽然と座敷に現れ、共に舞い、
謡ったそうです。その歌声が奇妙なので聞き耳を立てると、
「天王寺のや、ようれぼしを見ばや」
と言っていたそうです。
侍女がその賑やかさを聞いて駆けつけ、覗くと、田楽法師はお
らず、異形の天狗たちがいたということです。嘴があったり、翼
があったりで、山伏の格好をしていました。高時はその天狗た
ちと楽しそうに舞っていたのです。
不気味に思った侍女は高時の家来たちに報告し、家来たちは
太刀を手にして駆けつけました。すると怪しい者たちは消え失
せ、畳の上には人間のものとは思えない足跡が多数残されて
いて、確かに天狗が舞っていたようです。
天狗たちは「ようれぼしを見ばや」と謡ったのですが、その「よう
れぼし」は「妖霊星」のことだろうと、後世では考えられています。
天下が乱れる時に現れるとされる、不吉な星です。天狗たちは、
それを予告しに来たのかもしれません。