明智光秀がまだ、浪人している頃の話です。仲間とたまたま
川の岸を通りがかりました。仲間の1人が川の中を見て、
「あそこに大黒様が流れている」
そう言ったそうです。
光秀は降りて行き、その大黒様の木像を拾います。仲間は、
言いました。
「大黒様は、千人の頭だ。お主はやがて、千人の大将になる
ぞ」
するとこれを聞いた光秀は、大黒様を再び、川の中へ投げ捨
ててしまいます。
「何故せっかく拾った大黒様を、捨てたのだ?」
当然仲間は、訊ねます。
光秀は、答えました。
「たかが千人の将の大黒様を拾ってありがたがっても、始まら
ない。俺はもっと大きな望みを、持っている」
仲間たちは皆呆れて、顔を見合わせたそうです。
明智光秀は、こういう人でした。かなりの野心家です。そして織
田信長は、光秀のそういうところを買って、部下にしたのでした。
なので伝えられる信長像と光秀像とは、いささか違う気もします
ね。勿論、そういう野心家だったから信長のプライドを傷つける
言動にキレたという見方も、できます。
しかし以前も書きましたが、この逸話のようなことを信長の前で
も行ない、信長の命令に反抗してもいます。そしてそれに対して
信長は寛大だったというエピソードは、あります。
後に天海僧正として徳川幕府をも支配したという説もうなずける
し、そうだとすれば、この時の野心は、果たされたとも言えます。