福井県のあわら市に、この「嫁威(よめおどし)」という地名
があります。この地名は姑が嫁を脅したことに由来すると、
言われています。
その伝説は、蓮如上人が活躍した時代のことなので、室町
時代に遡ります。
当時この場所に、夫と子供を共に病気で失ってしまった嫁
が、おりました。彼女は世のはかなさを感じ、毎晩のように
蓮如上人のもとに教えを聞きに行くようになったということ
です。
ところが姑は、蓮如上人が嫌いだったのか、嫁のこの行動
を快く思わなかったそうです。
姑は或る日、鬼の面をかぶって待ち伏せをし、嫁が帰る途
中、「信仰をやめなければ、食べてしまうぞ」と脅したのでし
た。
しかし嫁は動じず、「南無阿弥陀仏」と唱え、立ち去って行っ
たのでした。
姑は仕方なく家に帰ったのですが、鬼の面が顔からはずれ
なくなってしまいます。嫁はその姑に、念仏を唱えるように
アドバイスをしました。
そこで姑は初めて、「南無阿弥陀仏」と唱えます。すると、面
が顔からはずれたということでした。
というのが、「嫁威」にまつわる伝説です。これ、地名から受け
るイメージと、ちょっと違いますね。私が奇妙としたのは、そこ
です。
嫁が脅される。確かに脅されますが、まるで動揺しませんし、
被害にも遭いません。脅された嫁の方が、脅した姑より、はる
かに強いのです。これは、嫁が脅された話というより、蓮如上
人の力を訴えた話のような気もします。
いずれにせよ、こうした伝説に由来する、「嫁威(よめおどし)」
という奇妙な地名があります。