今の東京・目黒に当たる場所に江戸時代、将軍のお鷹場がありました。
3代将軍・家光の時代、梅太郎という男が、そこの番人を務めていまし
た。
或る日、見慣れぬ男が敷地内を歩いているのを、梅太郎は見つけます。
「ここは、将軍様のお鷹場。それを承知の無礼なら、許しておかぬぞ」
梅太郎は、そう脅しをかけます。
しかしその不審者、妙に態度がでかく、しかも平然と言い返します。
「いや、苦しゅうない。捨ておけ」
梅太郎は尚も、六尺棒で脅しながら、注意を繰り返します。しかしその
不審者はそれを聞かず、奥の方へ歩いていきます。ついにブチ切れた
梅太郎は、六尺棒でその不審者に襲い掛かりました。
すると背後から、「待てい、待てい!」の声。更に、
「そのほうが打とうとしているお方は、将軍家光公にあらせられるぞ!」
と、まるでドラマ『水戸黄門』のクライマックスシーンを見るような光景が、
繰り広げられたのです。
梅太郎は、家光のお付きの者に、取り押さえられました。しかしそれに対
し家光は、
「この者は、立派な番人じゃ。今日はまことに愉快。この者に、褒美を取ら
せよ」
とのお達しを出しました。
まあ、梅太郎に悪気はないのだし、職務に忠実だっただけなのだから、お
咎めがないのは当然ですが、褒美まで取らせたのは、家光もなかなか話
がわかるというところでしょうか。とても春日局の猛烈乳母ぶりにびびって
男色に走った人とは、思えない。まさか、梅太郎が好みだったなどというこ
とは、ないと思います。