2020年12月に発売された書籍
「これだけはやっちゃダメ! 相続対策の「御法度」事例集」の
事例集#19で執筆いただいた行政書士・細谷 洋貴さんです。
実際にあった相続事例をご紹介していきたいと思います。
テーマは「農地の遺贈は、通常の遺言ではアウト」
一般の方はもちろん、農業に携わっている方は必見!
問題なさそうに見える相続にも、実は落とし穴があるかもしれません。
■「農地」の相続には落とし穴が!
今回の相談者は70代の男性。
同じく70代の妻と、50代の長男の3人家族です。
相談者には5歳離れた弟がいて、
・自宅不動産(3,000万)
・農地(200万)
・預貯金(2,000万)
のうち、
相談者の父親から受け継いだ農地は弟に遺したい、と考えていました。
終活を考えるにあたって、弟を含めた家族全員で話し合いをしたところ
農地は弟が引き継ぐ、とのことで話がまとまりました。
しかしながら、本来であれば弟は相続人に該当しません。
それならば、と生前のうちに遺言書を作成することにしたのです。
非常に素晴らしい流れですね。
この遺言書ですが、以下のように記されていました↓
特段問題はなさそうですよね。
しかしこの「農地」、注意しなければならない点があるのです。
農地は通常の法律ではなく、「農地法」と言われる法律で管理されています。
この農地法によると、農地の所有権(持ち主)を変更する際には
農業委員会の許可が必要、となっているのです。
しかし但し書きでは、「遺産の分割による移転は許可不要」
つまり相続による変更は許可が不要、とされています。
それなら今回のケースも問題ないのではないか?
と考えますよね。
ここで重要なのが、「遺贈」という言葉です。
遺贈とは、相続人ではない人が財産を譲り受ける際に使われる言葉。
まさに、今回の遺言書が当てはまります。
この「相続人ではない人物が農地を相続する場合」は、
残念ながら但し書きが適用にならず、農業委員会の許可が必要になるのです。
しかも今回のケースだと、農地法に定められた概要によって
遺贈は認められずに終わってしまいました。
せっかく用意した遺言書が無駄になってしまったのです。
■気持ち一つで相続は変わる
それでは、どのような形であれば遺贈が認められたのでしょうか?
ひとつの方法として考えられるのが「包括遺贈」です。
農地とは明記せず「一切の財産を」「○分の○の財産を」と記すことで、
弟が相続人と同じ立場に立つことが可能です。
ただ、この場合であると本来渡すはずではない
他の財産もまとめて渡してしまう可能性があるため、
トラブルを防ぐためにも、事前にきちんと話しておく必要があります。
今回のケースでは、話し合いの中で
相談者の父による意思によって、この農地が相談者に
引き継がれたということが判明しました。
その時までは農地に何の思い入れもなかった相談者の長男が、
この話を聞いたことで考えが一転。
農地を守るために、先祖たちが様々な苦労をしてきたことが分かり、
「長男である自分がしっかり受け継いでいく」と決めました。
そのために農業の経験がある相談者の弟にも手伝ってもらいながら、
家族全員で農地を守っていくことになったのです。
結果、遺言書は「長男に全ての財産を相続させる」と書き換えられたことで
多少の負担を生じてしまいましたが、
それ以上に大切な気持ちの面で一つになることが出来た事例でした。
■生前に向き合おう、家族の話
今回のケースで一番良かった点は、生前にこの問題が分かったことです。
もしこの問題に気づくことなく相談者が亡くなっていた場合、
弟は「もらうべきものがもらえなかった」と思うかもしれませんし
長男は「なぜ遺言書にはおじさんの名前があったんだろう?」と
不思議に思うかもしれません。
トラブルを未然に防ぐこともできたのも、生前のうちに
家族みんなで話し合いを重ねたから。
そして生前に相続の専門家に相談しておくことで、
財産だけではなく「想いをつなぐ」ことが出来るようになります。
争族を避けるため、また笑顔相続につなげるためにも
早いうちから大切な家族と相続の話をすることをオススメします。