プリンと肉まん | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 冬は寒いけど、このひんやりと冷たい空気がそれほど嫌いになれないのは夜空が妙に澄んでて綺麗なせいかもしれない。
 右手にはプリンとヨーグルト、左手には肉まんの入ったコンビニの袋を下げて痛いほどに冷えた道を歩く。何気なく見上げた星空に、ふと浮かんだフレーズが存外良くて。忘れてしまわないように何度も口の中で呟く。
 新曲が出来たら一番に聞かせると約束を交わしているあいつは、家に帰るころには寝てしまっているだろう。明日の朝イチにでも聞かせてやろうと、その時のリアクションを思い描いて口元が緩んだ。

 両手にコンビニ袋をぶら下げてボロいアパートの一室を見上げた。真っ暗なはずの我が家の窓は煌煌と明るくて、俺は思わず舌打ちした。
「先に寝てろっつったのに…」
 そう呟きながらも、口元が緩むのが止められない。バンド活動だけじゃまだまだ食っていけないから、バイトもいくつか掛け持ちして。今はこのボロいアパートの一室で精いっぱいだ。
 カンカンと響く足音を出来るだけ抑えてサビの目立つ鉄階段を上る。部屋のドアを開けると、コタツで丸まっていたお前が顔を上げてふわりと笑った。
「お帰りなさい」
「おう、ただいま…じゃねーよ!先に寝てろっつったろ?」
 ごそごそと靴を脱ぎ棄てて部屋へあがり、コタツの上にコンビニ袋をふたつ並べておく。コートを脱いでる間に、お前はコンビニ袋をのぞきながら口をとがらせた。
「だって、もうだいぶ熱も下がったもん。あ、ヨーグルト買ってきてくれたんだ。ありがとう」
「おう、もう明日の朝の分がなくなってたからな」
 コートをハンガーにかけておいて、コタツに足を突っ込みながらついでにお前の額に手を当てる。確かに朝よりは熱は下がってる。けど、まだ少し温い。
「まだぬくい」
「コウの手が冷たいんだよ」
「まだ微熱っぽいんだよ。ほら、ぶり返す前にちゃんと治しとけ」
 ばさりと音を立てて小さなコタツ机の上にノートを広げ、その隣に真新しい譜面を並べた。拗ねたみたいに口を尖らしていたお前の表情が一変して明るくなる。肉まんの入っている袋を手元に手繰り寄せて中身を取り出し、まだ温かいそれに齧り付きながらプリンをお前の前に据え置いた。
 プリンを受け取ったお前は素直にそれのふたを開けながら興味津々といった風に俺の手元を覗き込む。断片的に浮かんだフレーズを書き溜めているノートを覗き込めるのはバンドメンバーを除けばお前だけだ。
「新曲?」
「ん」
 さっき浮かんだフレーズと、以前に思い付いて書き留めていたもの。このノートの中身は、さしずめバラバラなパズルのピースがたくさん詰まった箱みたいなもんだ。たくさんあるピースの中からきらりと光る粒を拾い集めて譜面に起こし、それを何度も練り直して一つの形になる。
 形になったものを今度はメンバーに聞かせてまた練り直して…曲作りはその繰り返しだ。時間をかけて作り上げた曲にはそれぞれ思い入れもあるし、どれも自信を持ってる。でも、それが売れるかどうかを決めるのは俺たちじゃない。観客だ。だから怖い。必死に足掻いて生み出した俺たちの歌が、誰にも相手にされなかったら…。そう思うと、不安で苦しくなる。
 ノートと譜面のにらめっこに没頭していたら、しばらく黙ってプリンを突いていたお前が手を止めてふわりと笑った。
「その曲、いいね」
「あ?そうか?」
「うん。そこのフレーズ好きだな、私」
 お前がそう言ったフレーズは、さっき帰り道で思い浮かんだばかりのもので。お前が嬉しそうに目を細めるから、思わず俺もにやりと笑う。
「だろ?やっぱ俺って天才かもな!つーかお前、それ食ったら早く寝ろよ?」
「はーい。コウがさっきのところ子守唄で歌ってくれたらね」
「上等だ。このハリー様の子守唄を聞けるなんて、光栄だと思えよ」
 なんてな。さっきのフレーズはお前を思って浮かんだものだなんてことは、こっぱずかしいから口が裂けても言えねぇけど。

 いつか満員のライブホールで、この歌をお前に捧げられたら。その日が来るまでは、この小さなボロアパートがお前専用のライブホールだ。


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12月19日はハリーのお誕生日です。

ハリー&デイジーはこんな感じで何となくいちゃいちゃ暮らしていけばいいと思うよ!

お誕生日おめでとう、ハリー(´∀`)