ただそれだけのこと。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 放課後の校庭。それぞれ家路に向かう生徒たち。友人とともに帰る者、何か用事があるのか一人急いで帰る者、その様子は様々だ。僕は一人、それをここからぼんやりと見ている。
 明日の授業の準備、そして提出された課題の採点、その他もろもろのデスクワーク。やらなければならない仕事はまだまだある。だけど息の詰まる職員室から抜け出して、半ばプライベートルームと化しつつあるここからの、ちょっとした息抜きだ。

 けれど、いつからだろう。家路へ向かう仔羊の群れの中から、たった一人を探すようになったのは。多分君は、そんな僕の視線なんて気づきもしないでいるんだろうね。
 ああ、見つけた。君は明るくて優しいから、誰からも好かれている。僕が見つけるときは、いつも君はだれかと一緒。僕以外の、誰かと。
「今日は彼と一緒、ですか…」
 小さく呟いた声が思っていたよりも苦く響いて、少しだけ笑った。最初に惹かれたのは、その笑顔。ふわりと花が咲く瞬間のように、君の顔がほころんで。不思議と胸が暖かくなったんだ。君が友人に向ける笑顔が、僕に向けてくれる笑顔が、なんだか愛おしく思えて。
 ああ、また君が笑っている。けれど何故だろう。大好きな君の笑顔なのに、今は少し胸が痛い。その笑顔が僕に向けられていないことが、なんだか苦しい。
 君の全てを僕の手に、なんて流行りの歌のような事は望んでいない。ただ、君がそうやって笑っている姿を見ていたい。それだけいい。なのにどうして、こんなに胸が痛むんだろう。

 ふと、君が立ち止まって振り返る。どきりと胸が鳴る。君の視線がさまよい、化学準備室の窓辺に立つ僕の姿をとらえた。
 ふわりと花が綻んだ。ただそれだけのことだったのに、気が付くと僕は走り出していた。



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久々に思いつきで指まかせに書いてみました。

言葉遊びのような短文。深い意味はありませぬ(^_^;)