スペシャル・デイ。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

「げ、やっべ!もうこんな時間じゃん~!オレ部活行かなきゃ」
 教室でダラダラしゃべってると、なんで時間てあっという間に過ぎてるんだろう。気が付くともう部活の時間。慌てて立ち上がると、クラスメイト達が呆れたような顔をして笑った。
「お前さー、なんだかんだ言って柔道部続いてんなー」
「すーぐに辞めちまうんじゃねえかと思ってたのにさー」
「んー、俺もそう思ってたんだけどねー」
 からかうようなダチの言葉を耳半分に聞きながら鞄をつかむ。俺自身、こんなにハマるとは思ってなかったし。けど、しんどい稽古も体力がついてくると前ほど苦しくはなくなったし、何よりも――。
「つーか新名。お前なんか筋肉付いてきてるよな」
 そう、努力が形になってくるのが見えると、だんだんと面白くなってくんだよね、不思議と。……まあ、柔道なんてイマドキ流行ってなさそうにないモンにハマるようになったのは、それだけじゃないけど。

 プレハブ建ての部室は、部長である嵐さんが1年前に柔道部を設立した時に『あしながおじさん』からプレゼントされたらしい、という話はホントかウソかはよく分かんないけど、最近になってできたものらしい。扉を開けると、まだ少しイグサの匂いがする。
「ちょりーっす、遅くなりましたー」
 新設されて1年くらいの柔道部は、まだまだ部員が少なくて。それが逆に居心地がいい理由、だったんだけど…。
「あ、に、新名!遅かったね?」
 部室に入ると、それまで何か話をしていたらしいあんたが慌てた様子で振り返る。一緒にいた嵐さんも、相変わらずのポーカーフェイスだけど何かちょっと気まずそうに見える…ような気がする。
 柔道部が部活らしい活動を始めたのは、俺がこの部に入る(正確には無理やり入れさせられる)少し前くらいから。部員二人とマネージャー、三人だけの小さな部だ。だからだろうか、先輩2人に俺だけ1年っていう構図でも、なんとなく居心地がよかった。弟しか兄弟がいなかった俺にとって、歳の近い年上の兄弟がいたらこんな感じなのかなーなんて。
 けど、最近はちょっと空気が変わってきてて。学年が一緒の先輩二人はやっぱり一緒に過ごす時間が多いせいか、時々俺が後から現れると、さっきみたいに少し気まずい空気が流れることがある。
(やっぱ、そういう事なんかな…)
 出会いはナンパだった。時々街で見かけるあんたはマジ可愛くて、声をかけたときの反応が面白くて。たまに、だけど姿を見つけるたびに声をかけてた。それが、同じガッコの先輩だったなんて、運命じゃん?みたいに一人で内心盛り上がったりもしてた。
 けど、一年っていう年月は短いようで結構デカい。あんたの名前すら知らなかった一年前から、あんたと嵐さんはこうやって二人で柔道部を立ち上げて頑張ってたんだ。
「新名、遅刻だぞ。ランニング五周追加な」
「えぇー?マジっすか?」
「あはは。頑張って、新名!」
 一瞬だけ流れた気まずい空気は、こうやっていつもほんの一瞬だけで。だから俺も、気付いてないふりをする。だって、居心地のいい今の関係を、崩したくはなかったから。

「はぁ~、つっかれたぁ…」
 練習後、へたり込んだ俺を呆れたように見ながら嵐さんが汗をぬぐう。
「あれしきの練習で何言ってんだ」
「あれしきって…嵐さんの体力と俺の体力、一緒にしないで下さいよー。嵐さんが特別製なんです」
「ふーん…、そうなんか?俺、まだちょっと足りねー気もするけどな」
 疲れたんなら先帰ってていいぞ、そう言い残して嵐さんは校庭の方へと足を向ける。あんだけ乱捕りしといて、まだランニングする体力残ってるとか…どんだけ有り余ってんだろ。どっと押し寄せる疲れを感じながら、隣で嵐さんを見送っていたマネージャーに声をかける。
「ねえねえ、嵐さんもああ言ってたしさ。こないだ面白い店見つけたんだ。帰りに寄り道しない?」
「あ、えっと…今日は、その、まだ用事が残っててね?だから…」
「そうなの?じゃあ俺、手伝おうか?」
「ううん!大丈夫だからっ!新名はゆっくり休んでて?ね?」
 …あんたって、基本的に嘘つくの下手だなぁって、こういう時につくづく思う。さっきまで忘れてた、ちょっと嫌な感情が胸の奥に蘇ってきて慌てて頭を振った。ここであんまり変に押して変な感じになっても嫌だから、ここは気付いてないふりをしてスルーが得策。
 じゃあお言葉に甘えて、とおどけて部室を出る。何だか、風が妙に冷たく感じられて首をすくめた。


 高校入学のあの日、あんたを見つけて浮かれてたのは俺の方ばっかりだったんだな。そりゃ俺は一年後輩だし、楽しければそれでいいやって軽く流してきてた。何かに熱中するなんてかっこ悪い気がしてたし、ましてや熱血柔道部、なんて俺のガラじゃないし。
 けど、あんたや嵐さんに出会って、いつでも本気で挑んでくるあんたたちを見てて。一生懸命も悪くないかなって思えるようになった。いくら頑張っても追いつけない壁は、それゆえに乗り越えがいがあるような気がして。いつかきっと、嵐さんを超えて見せるんだ、なんて密かに思ってたり。
 でも、やっぱこの辺が潮時なのかな。男女三人でいつまでも仲良く、なんて続く訳ないし。これ以上深みにはまる前に抜けた方が、きっと傷は浅くて済む。
 ……せっかくここまで頑張ってきて、ちょっともったいない気もするけど。


 数日後。そんな密かな決意を胸に足を向けた柔道部で、俺はそれが盛大な勘違いだったことを思い知る羽目になる。






「「ハッピーバースディー、新名!」」

 あんたの変によそよそしい態度も、俺が後から入った時に感じたあの変な空気も。全部俺を脅かせようともくろんでいたことだったなんて。
 あんまり驚いたから、先輩二人に仕組まれたサプライズパーティーの帰り道に、この数日のよそよそしい空気にてっきりあんたと嵐さんがくっついたのかと思ったと言ってやったら、あんたは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振った。
「そ、そんなはずないじゃん!もう、新名何言ってんの!?」
「だってさぁ、なーんか二人でこそこそしてるし?あんたは変によそよそしいし?」
「それはその、新名の誕生日プレゼント何がいいかなって思って…。身近にいる男の子って、新名か嵐くんくらいだし…。だから嵐くんに相談したら、『いっそ内緒で驚かせてやろうぜ』って言い出して…」
 ネタが割れちゃえば事の展開は安易に読めた。けど、真っ赤になってうろたえるあんたが妙に可愛くて。仕返し半分で、もう少しからかってやりたくなって。
「なあ…」
 少し前を歩く細い肩にそっと手をかけて、軽く引き寄せるとあんたは簡単に俺の胸の中へ納まった。
「に、新名!?」
「俺、ちょっと寂しかったんですけど?あんたと嵐さんがいい感じになっちゃったのかと思って」
「う、ご、ごめんなさい…」
「お詫びに今日はとことん付き合って」
 顔を覗き込むと、あんたは真っ赤な顔でコクコクと頷く。
「じゃ、行こう」
 小さな手を取り、俺は歩き出す。今日も明日も明後日も。あんたとこうしていられたら――なんてことを言ったら、あんたはまた真っ赤になるだろうから言わないけどね。


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11月25日はニーナのお誕生日!

初書きニーナとなりましたが、いかがだったでしょうか…(((( ;°Д°))))

第一印象は『軽っ!なんじゃコイツ!』だったニーナ君ですが、
実際に攻略してみるといい意味で裏切られました。
ニーナ…可愛いじゃないかこの野郎(・∀・)

しかしなんだかんだ言って、青春三角組は三角からなかなか抜けられないねw

何はともあれ、ニーナお誕生日おめでとう☆