37.5度の日曜日。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 それはある日曜日の事。朝から、少しだるいような気がしていたけれど。でも、それはほんの少しだけだったし、何より日曜日は色々とやらなきゃいけない事が多い。少々だるいなんて、大した事が無いと思ってた。
 けれど、それはちょうどお昼前に食料品の買い出しに行こうかという話をしていた時だった。
「あ…」
 ソファから起ちあがった瞬間に、軽いめまいを覚えて思わず再び座りこんだ。たったそれだけの事だったんだけど、ちょうど正面に座っていた彼が顔を上げた。
「…ん?」
「何でも…」
 ない、と言い終わる前に、彼の大きな手が私の額に触れる。そして、その瞬間彼の顔が険しくなった。
「オマエ、熱があるんじゃねぇのか。なんで早く言わねえんだ!」
「大した事無いって……って、ちょっとコウくん!?」
 気がつくと、私の体は宙に浮いていて。軽々と持ち上げられた私が慌てて抗議の声を上げると、ぎろりと睨んで一喝。
「ウルセ。耳元でギャーギャーわめくな。落とされてぇのか?」
 そしてそのままベッドに放り込まれてしまった。布団を掛けて、体温計を手渡されたので大人しく熱を計ってみると、37.5度。
「やっぱり熱があるな…」
「微熱だよ。大した事無いって」
「いや、微熱ナメてっと後が怖えからな。オマエ、今日は一日そこで大人しくしてろ」
「えぇー、大丈夫なのに…」
 と、思わず口を尖らせる私に、コウくんはダメだときっぱり言い放ち。そして、ベッドに横たわる私の頭をくしゃりと撫でて笑った。
「たまにゃオマエもゆっくり寝てろ。家の事はオレがやっといてやるから。な?」
 しぶしぶ頷く私に、念押しみたいにもう一度頭を撫でてコウくんは階下へと降りて行った。

 高校を卒業してから、バタバタする日々が続いたからちょっと疲れが出たのかな。でも、一日寝てろとは大げさすぎる気もするけど。ぶっきらぼうで強面のくせに、コウくんは案外と面倒見が良くて心配性だ。
『コウは過保護だから。オマエ、覚悟しておけよ?』
 と冗談半分にルカくんから言われたのは、いつのことだったか。ぼんやりとそんな事を考えていると、段々と瞼が重たくなっていった――。



 ここんとこ、アイツには無理ばかりさせていた気がする。いつだってそうだ、アイツは自分がしんどい時でもニコニコ笑って何でもない風を装ってオレらに接してくる。だから、アイツが無理をしてても気付けない事が多い。
 オレら兄弟の住処だったここにアイツがやって来て、アイツのおかげでここの生活は格段に過ごしやすくなった。だけど、アイツはきっと無理をしてたんじゃないかと思う。だからあんな風に急に熱を出したりしたんだ。
 …オレがもっとちゃんと気をつけていてやれば。
「コウは考えすぎ。あの子も言ってたじゃん。大した事無いって。一日休めばすぐに元気になるよ」
 一階に降りると呆れたみたいな顔をしたルカにそう言われた。痛い所を突かれて思わず睨みつけると、ルカは肩をすくめて笑う。
「心配なのも分かるけどさ。あんまり過保護にしちゃうと、あの子も困っちゃうと思うよ?」
「……」
「なんてね。ジョーダン。じゃ、オレ、バイト行ってくる」
 そう言ってルカはフラリと家を出た。ったく、過保護だとか何とか、誰のせいでこうなったと思ってるんだ。

 それから、部屋を片付けて掃除して。休みの日にはアイツがいつも手伝ってくれていた家事をこなす。そうだ、そろそろ昼飯を作らねぇと。オレやルカが風邪をひくなんてことは滅多にねぇし、万が一ひいても飯食って寝てりゃすぐに治る。
 でも、アイツの場合はどうなんだ?何か食いたい物とか、あんのかな。一応リクエストを聞いてみるか。そう思ってアイツが寝ている部屋へ向かった。
「おい、オマエ――」
 見ると、ベッドの上ではオマエがスースーと寝息を立てていた。そっと近付く。覗き込むと、気持ち良さそうにオマエはよく眠っていた。この分ならすぐに良くなるか。そう思って少し安堵の息を吐いた時。
「ん…、コウ、くん?」
 身動ぎをしたオマエがゆっくりと眼を開く。とろんとした眼でオレを捉え、そして何故かクスクスと笑った。
「…なんだよ」
「ふふふ、何でも無い」
「なんだよ、言えよ。ちゃんと言わねぇと分かんねぇだろ」
 すると、オマエの白い手が伸びてきてオレの眉間に触れた。
「また、ココにしわ寄ってる。コウくん、ホントは優しいのに損だよ?そんな怖い顔ばっかりしてたら」
「ウッセ。オレは元々こういう顔だ」
「そんな顔ばっかりしてたら、ここのしわが取れなくなっちゃうんだから」
 子供みたいにクスクス笑いながら眉間の皺を伸ばそうとするお前の手を取る。熱のせいか、いつもより温い。けど、さっきよりも顔色は良くなってるような気がした。
「そんだけ軽口たたけりゃ充分だ。昼飯、なんか食えそうか?」
「ん、食べる。コウくんの作ってくれたご飯が食べたい」
「へいへい。そんじゃ、ちょっと待ってろ」
 すぐ作って来る、と立ち上がろうとオマエの手を離すと逆に手を掴まれた。どうしたのかとベッドの上を見ると、何故かオマエが恨めしそうにオレを見つめていて。
「…何だ?」
「もうちょっと、いて?」
 …不意打ち。どうしてこう、オマエはいつも…。とっさの事に反応できずに立ち尽くしていると、いつもより温いオマエの手がさらにギュッと手を握りしめた。
「はぁ。しょうがねぇな。ガキみてぇだぞ?」
「いいもん。病気の時は特別だもん」
 再びベッドサイドに座りオマエの頭を撫でてやると、ようやく満足したみたいにオマエが笑った。そのガキみたいな無邪気な笑顔に、つられて思わず頬が緩む。
「えへへ、ごめんね?心配かけて、ワガママ言っちゃって」
「いや、いい」
 たまにゃオマエに振りまわされるのも、悪かねぇ。病気は勘弁だけどな?そう呟くと、オマエが照れ臭そうに笑った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


甘いのが苦手そうな桜井兄で甘いのを狙って失敗したっぽい一品。
甘いSSのというのは、相変わらず狙って書けない主でございますヽ(;´Д`)ノ



   人気ブログランキングへ