幼き日の約束。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

「もうっ!コウくんのバカ!キライ!!」
 ガキの頃から目つきが悪くて粗暴でガタイも良かったから、そんな事を言われるのは日常茶飯事だった。大抵の女子どもはオレの見た目を怖がって近付いてこない。近寄ってきたとしても、オレの態度に怯えて逃げていく。
 まあ、ガキの時からそんな女どもと遊ぶよりも野球だサッカーだ空手だと身体を動かしまわってる方が好きだったから、そんな事はどうでもよかった。女どもに好かれるのはルカの役目、オレはオレの好き勝手にさせてもらう。子供ながらにそんな事を考えてた。
「あーあ。ダメだよ、コウ。女の子にそんな事言っちゃ」
 知るか、とそっぽを向くオレ。機嫌を損ねて不貞腐れてるアイツ。間に立って、呆れたようにオレをたしなめるルカ。これは……いつ見た風景だ?
「知るかよ、オレはただ…」
「コウ、ちゃんと――――」


 耳障りな電子音が鳴り響く。布団の中から手を伸ばし、そいつを止めて再び布団へ潜り込んだ。何だかやたらに懐かしい夢を見ていたらしい。遠い昔の、オレ達がほんのガキだった頃の夢。あの時、オレは何を言ってアイツを怒らせたんだろう。そしてルカは何を言っていたんだろうか。
 しばらく布団の中で考えていたが思い出せる訳も無く、考え込んでいるうちに眠気も醒めたのでようやく布団からのそりと起き上がる。そういや、なんでそんなよく思い出せもしないような昔の事を夢に見たんだろう。

 手近にあった服を適当に着て、階下に降りる。珍しくルカはもう起きているらしい。と、下から甘ったるい匂いが昇って来ているのに気がついて。そういや今週はルカの食事当番だったと深い溜息を吐いた。ルカに飯を作らせると、大抵ホットケーキか腹も膨れそうにないスナック菓子だ。
「あ、コウ。おはよ。今日も不機嫌そうだね」
「朝からこんな甘ったるい匂い嗅がされて機嫌がいい訳ねぇだろ」
「え、なんで。超いい匂いじゃん」
 こいつには何を言っても無駄だとオレは黙ってソファに座りこんだ。テーブルの上に合った雑誌を手に取り、ぱらぱらとめくる。ホットケーキを山盛り載せた皿を持ったルカがキッチンから姿を現す。
「あれ、ホントにえらく不機嫌じゃん。変な夢でも見たの?」
「ウッセ。テメーが朝からそんなもん作ってるからだ」
「まあまあ。そう怒んないでよ」
 呑気に笑いながら、ルカがオレの眼の前に山盛りのホットケーキを置く。胸やけしそうな匂いにオレは深々と溜息を吐いた。




 不機嫌を絵に描いたような仏頂面のコウを眼の前に朝食のホットケーキにナイフを入れた。
「いっただきまーす。…あれ、コウ、食べないの?」
「朝からそんな甘いもんが食えるか」
 ただでさえ悪人ヅラなのに、ますます凶悪な面構えになってコウが呟く。昔からコウは甘いものがあまり好きじゃない。こんなに美味しいのに、とオレはいつも不思議に思う。
 食欲の湧かないらしいコウを前に山盛りのホットケーキに食らいついていると、珍しくオレの携帯電話が軽快な音楽で着信を知らせる。液晶画面に浮かんだ名前を見て、オレは思わずコウの仏頂面を横目で見た。
『もしもし、ルカくん?』
 受話器から聞こえてきたのは透き通ったオマエの声。
「オハヨ。こんな朝早くからどした?」
『朝早くって……もうお昼前だよ?』
 呆れたように返されて時計を見ると、確かに時刻はお昼前と言っても可笑しくは無い時間だ。でも、日曜日なんてこんなもんだろ?そう答えるとオマエが受話器の向こうでますます呆れたように笑った。
「で、何の用?デートのお誘い?」
『ふふふ。あのね、今日お暇ならウチに遊びに来ない?コウくんと二人で』
「コウと二人でオマエの家に?何で?」
 オウム返しで問いかけると、何故かオマエは楽しそうに笑った。

 オマエからの電話を切り、コウに伝えると気の無いような返事でコウがうなづく。
 そう言えば、と不意に昔の事が脳裏によみがえる。ガキの頃に1度だけ、オマエの家にコウと二人でお呼ばれした事があったっけ。季節はちょうど今頃。オマエの家には綺麗な雛人形が飾られてた。
 オマエのお母さんがちらし寿司やらご馳走を用意してくれていて、お昼ごはんをご馳走になって。オレとコウは男兄弟だから、女の子のいる家はこんな感じなのかと妙に居心地悪く感じたっけか。
 そう言えば、あの時コウが不用意な事を言ってオマエを随分と怒らせたっけ。ガキの頃から目つきが悪くて乱暴者だったコウは、何かと女の子からは嫌われる存在だったけど、何故かオマエだけはオレともコウとも平気で接してくれてた。
 そのオマエがあんなに怒るなんて、ホント珍しかったよな。でも、コウはバカだからきっと忘れてる。何を言ってオマエを怒らせたのかも、あの時交わしたオマエとの約束も。

 そんな事を考えていたら、コウがちょっと変なものを見るような顔でオレの事を見ていた。





 ルカくんとの通話を終えて携帯の通話を切った。よし、早く準備に取り掛からなくちゃ。
 昨日の夜、部屋の中を片付けていて見つけた1枚の古い写真。それを見ていたら何となくルカくんとコウくんの二人をお招きしたくなっちゃった。リビングに飾られた小さな雛段。子供の頃はすごく大きく見えていたけれど、今見るとすごく可愛らしい作りのもので。

 子供の頃のちょうど今頃、雛飾りを出してもらった事が嬉しくて、当時すごく仲の良かった男の子二人をお招きして小さな雛祭りパーティーをした。いつも外で走り回っているような男の子たちだったから、きっと退屈だったに違いないんだけど、当時の私はそんな事は気付きもしなくて。
 ただ、大好きな雛飾りを出してもらったから、それを仲良しのお友達に見せたかった。
『もう、コウくんのバカ!キライ!!』
 何がきっかけだったのか、何かの拍子でコウくんが言い出した言葉が幼いころの私の機嫌をひどく損ねて。そう…確か、雛祭りが終わってしまえば雛人形を片付けられてしまうのが悲しくてずっと飾っていてくれたらいいのに、そんな事を私が言ったんだ。
『これって、ずっと出してたらヨメに行き遅れるんだぞ』
 その言葉の意味も大して理解もしていなかったけれど、からかうようにコウくんがそう言って。私はそれが気に入らなくて、機嫌を損ねて半泣きになっていたっけ。
『ダメだよ、コウ。女の子にそんな事言っちゃ』
『知るかよ』
『もう、コウくんなんて知らない!』
 とうとう泣き出してしまった私に、コウくんは困ってそっぽを向いてしまって。そんな私たちの間に入ってその場をなだめてくれたのが…。
『じゃあ、こうしたらいいんだよ。もしも…』
 もしもお嫁に行けなくなっちゃったら、なんてあの時した約束を二人は覚えてくれているのかな?

 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
 きっと二人だ。私は慌てて玄関へ向かう。


 ねえ。ルカくん、コウくん。もしも行き遅れちゃったら、あの時の約束を果たしてくれる?なんて言ったら二人はどんな顔をするのかな。



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