そしてボクらは甘い夢に溺れる。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 私の恋人の話をすると、大抵の人はすごく驚く。よく我慢できるね、とか、寂しくないの、とか色々言われるけど、だってしょうがないじゃない。それは付き合う前から分かっていた事だし、覚悟もしていた事だし。
 メールもするし、月に数回は電話だってする。長期休暇が取れた時は会いに来てくれるし、もちろん私も何度か彼の元へと遊びに行った。彼はとても私を大切にしてくれているし、私も彼の事が大切で大好き。だから、周りの友達が言うほど不満もない。

 だけど、時々周りの友達が羨ましくなることだってある。寂しくて無性に会いたくなった時、簡単に会いに行ける距離じゃないし。声が聞きたくて仕方がない時でも、向こうは真夜中で繋がらない事もある。
 そんな時ばかりは周りの恋人たちが羨ましくて仕方が無くなってしまう。


 つい先日も、そう。仕事で失敗をしてしまって、通っている英会話スクールでも上手く行かなくて。何をしても上手くいかない日だってあるけれど、あの日はとても凹んでしまって、無性に彼の声が聞きたくなった。
 だけど、向こうはちょうど真昼間で彼は仕事をしている時間。お父さんの会社を手伝い、いずれはそれを継ぐために誰よりも頑張っている彼の仕事の邪魔をする訳にも行かなくて。
 たかだか電話一本でどうしてここまで考えなくちゃいけないんだろうと思うと、何だか腹が立つやら悲しくなってくるやらで。八つ当たり交じりで彼に送りつけたメールはたった一言。
『今すぐ会いたい』
 でも、送ってすぐに後悔した。彼は優しい人だから、きっとすごく心配する。そして、もしかすると本当に私の願望を叶えるためにすごく無理をして来日してしまうかもしれない。毎日すごく忙しくしている彼に、そんな心配をかけたくないしこれ以上無理をしてほしくもない。
 だから慌ててメールをもう一通。
『ゴメン。今のはウソ。会いたいのはホントだけど、無理しないで』
 むしゃくしゃした気分からヤケクソで送ってしまったメールだから、気にしないで。次の休暇には私から会いに行こうと思う。だからその時まで体調に気をつけてね、と。

 顔が見えない。声が聞こえない。体温を感じられない。遠く離れた場所で、彼は一生懸命頑張っている。なのに、私は……。
 ホントは、いつも不安で仕方が無いの。本音を言えば、毎日でも声が聞きたいし、彼の笑顔が見たい。彼の大きな手に触れられて、彼に名前を呼ばれたい。ワガママだっていっぱい言いたい。
 けど、そんな思いを伝えるにも、私たちの間の距離は遠すぎる。


 家に帰って来て、まずパソコンを立ち上げてメールをチェックする日々。時差の関係もあるし、忙しい彼のタイミングもあってかすぐに返信が無いのもよくある事。
 ……だけど、今回はちょっとひどくない?ヤケクソでたった一言会いたいと送ってしまい、慌てて弁解メールを送ってから数日。彼からの返信は未だ無いままで。
「呆れられちゃったかなぁ…」
 あんなメール、送るんじゃ無かったとつくづく後悔。遠距離って難しい。たった一通のメールでも、顔が見えない分いろいろと気を使ってしまう。ただいつものように疲れ果てていてメールのチェックすらままならないとか、そんなのだったら良いけれど。本当に嫌われちゃったのならどうしよう…?
 ぼんやりとパソコンの画面を眺めていたら、アパートの呼び鈴を押す音が聞こえた。
「はーい」
 のそのそと立ち上がり、玄関へ向かう。がちゃり、と扉を開けたとたん私の視界はふわふわの金髪に遮られてしまった。
「あー、もう。元気そうで良かった!あんなメール来るからめっちゃ心配したんやで」
「え?く、くーちゃん!?」
 慌てて顔を上げると、そこには一番会いたかった人の顔。
「そ、ボクや。キミが会いたいって言うから、飛んできたで」
「で、でも私…」
 ちゃんと大丈夫ってすぐにメールを送りなおしたのに、と言うと彼は何故か困ったように笑った。
「うん、ホンマはボクがキミに会いたくなったから。…あかんかった?」
「そんな事…」
 あるはず、ない。私だってすごく会いたかった。広い彼の胸にギュッと抱きつくと、彼は嬉しそうに私の髪に顔を埋めた。





 それから私たちは色んな話をした。彼の仕事の話や彼の住む家の近くに住みついた野良猫の話、そして私の近況。昔から英語だけはすごく苦手で、今も英会話スクールに通っていると言うのになかなか上達しないということを話すと彼は何故か興味津津という感じで私に尋ねてきた。
「なんで、そんなに英語の勉強を頑張ってるん?」
「だって…。いつか、約束したでしょ?くーちゃんの有能な秘書になるって」
 それは学生時代に戯れに交わした約束。でも、いつか叶えたい私の夢。だって、彼の秘書になればいつだって彼の傍に居られる。彼と同じ景色を見る事が出来る。
 そう呟くように応えると、彼はうーんと困ったように笑った。
「せやなぁ。キミみたいな可愛い美人秘書さんが一緒やったら、仕事も楽しいやろうなぁ」
 でもな、と彼は何故か悪戯っぽく微笑んだ。
「一緒におるのが望みやったら、別に秘書さんじゃ無くてもええやん」
「え?」
「将来の社長夫人、なんて方法もあるで?」
「え?くーちゃん、それって…?」
「あ、あーあぁ。ボク、昨日はあんまり寝てないからめっちゃ眠たくなって来たわ。オヤスミナサイ」
「え?くーちゃん?」
「お話の続きはまた明日にしよ?夜更かしは美容の敵なんやで~」
「ちょ、ちょっとくーちゃん?」



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2月23日はクリス君のお誕生日。

うっかり見過ごしかけていて急ごしらえの残念な一品。
しかも最後が中途半端なことこの上なしで申し訳ないです(^_^;)



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