僕の存在する意味。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 自分の生まれた日を祝ってもらう――。
 それは、ごく普通の家庭に生まれ育った人間であれば当たり前に行われてきた事だろう。この世界に生を受け無事に生まれ出た日を祝い、健やかな成長を願う日。僕は、そんな『当たり前』を知らずに育った。

 だからだろうか。ともすれば僕は自分の誕生日を忘れてしまいがちだ。おめでとうと祝いの言葉を告げられても、何がどうおめでたいのか理解が出来なくて。僕にとって、誕生日とは一つの時間の経過に過ぎないから。ただ単にひとつ年を取るだけに過ぎない日、だった。
 そう、君に会うまでは……。



 キッチンと呼ぶには狭い、簡素な部屋に取りつけられた小さな台所。まともな料理を作る事の出来ない(また、作る気もない)僕の部屋に備え付けられた、あまり意味のないそこが今日はやけに賑やかだ。

 トントントン。小気味いい包丁のリズム。
 カタカタカタ。少しずつ部屋に満たされる美味しそうな匂い。

 可愛らしいピンクのエプロンをつけた君が、クルクルとまるで踊るように台所の中を動いている。僕はそれを、何とも言えない幸福な気分で眺めている。

「誕生日プレゼントは何が良いですか?」
 キラキラと眼を輝かせながら問いかけた君に、ただ傍にいて欲しいとねだったのは僕。僕の手の届く範囲にいて、僕だけを見つめて。僕の事だけを考えて、僕のためだけに微笑んで。
 そんな子供みたいな事を言ったら、君は何故か照れ臭そうに笑っていたっけ。



 ねえ、君は気付いていたの?

 少しずつ色付いて、花開こうとする君をもどかしく見守るしかできなかったあの頃。君がクラスメイトの男子に微笑みかけるたびに、僕は優しい先生の仮面を被ったまま胸の内に黒い感情を抱いていた。
 君が僕の名を呼ぶたびにどうしようもなく胸は躍り、君を抱きしめたいと思う腕を押しとどめるのに必死だった。そんな自分の感情が一体何なのか、そんなことすら分からずに、かつてない抑えられない感情に戸惑っていた。

 ……ずっと、君が好きだった。どうにもならない想いを抱えて、ただ立ち尽くしていた。



 ねえ、君は知っている?

 僕らが同じ時をあの教室で過ごしていた頃。君が無邪気に笑って僕に誕生祝いを告げてくれるたびに。僕はすごく戸惑っていたんだ。そんな風に、誰かにおめでとうと言われた事が無かったから。
 そして、そうやって当たり前に誰かの誕生日に祝いの言葉を告げる君が、すごく眩しかった。

 君はそうやって、君にとってはすごく当たり前の行為で僕を救ってくれていた。僕の闇に、光を与えてくれたんだ。



 ラジオしかない僕の部屋。そのラジオも今は電源を入れていない。簡素な部屋の中を満たす音は、台所で僕のために料理を作ってくれる君が立てる音しかなくて。
 自然に弛む頬に頬杖をついて、僕はただそれを眺めている。そんな時間が、どうしようもなく愛おしい。
「……貴文さん?」
 突然、くるりと君が振り返る。
「はいはい。なんでしょう?」
「何か、すごい視線を感じるんですけど…」
 と、君は困ったように僕を見る。その仕草さえ、愛おしくて。僕は思わず笑みを深くした。
「あ!もしかして待ちくたびれてます?もうちょっと待って下さいね。もうすぐ出来上がりますから!」
 僕の笑みの理由をどう受け取ったのか、君は慌てて台所に向き直った。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?僕なら、いつまででも待てますから」
 クスクスと込み上げてくる笑いを抑えながら、君の背中にそう呟いた。


 ずっと、僕はただ計算する機械のような存在だった。何のために生まれてきたのか、その意味すら分からずに。ただひたすら数字を並べて、それだけが僕の存在理由だと思っていた。
 でも、この頃は違うんだ。こうして君と過ごす時間。僕を優しく包み込んでくれる、何にも変えられない大切な時間。そんな時間が増えていくたびに、僕は満たされていく。

 僕が生まれてきたのは、君に出会うためだったのかもしれない……。


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9月4日は愛する若王子先生のお誕生日!
若王子先生、お誕生日おめでとうございますо(ж>▽<)y ☆

謎めいたセリフや恍けた言動で振り回されっぱなしでしたが、
気が付くとすっかり先生に夢中になってましたw

先生の上にたくさんの幸せが降り積もりますようにラブラブ


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