あの後~灯台までを捏造 佐伯 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

「さよなら」
 そう言って、あいつに背を向けて歩き出した。冷たい波音を聞きながら、出来るだけ早くあいつから離れようと思った。後ろから、俺を呼ぶあいつの声が聞こえてたけど、振り返らずに歩き続けた。もう、決めた事だから…。


 あれから、俺は実家に戻った。久々の実家はひどく居心地が悪くて、息苦しい。もともと両親とは上手くいってなかったし、今更その溝を埋めたいとも思わない。ただ、もうあいつの顔を見るのが辛くて…。逃げ出したんだ。
 でも、逃げ出して楽になれると思っていたのに、どんどん息苦しさが増してくる。息が詰まる。


 家に居ても息苦しくなるだけだから、気晴らしに街へ出た。ちょうど下校時刻らしく、制服姿の高校生が目につく。……あいつは、今頃どうしているんだろう?泣いているんだろうか?それとも、俺の事を怒っているだろうか?
 俺のことなんて、さっさと忘れてくれればいい。そう思いながら、忘れてほしくないと思う自分がいる。泣いていてほしくないと思いつつ、泣いていてくれれば…と思う自分がいる。身勝手な俺。そんな自分が嫌で逃げ出したのに、俺はやっぱり身勝手のままで。
 泣いているくらいなら、俺の事を怒ってくれている方がいいな、なんて思って。あいつの泣き顔は見たくないから。俺の事なんかで、泣いてほしくないから。


 雑踏に居ると、息が詰まる。潮騒の聞こえないこの街は、殺風景で、息苦しくて。望んで帰ってきた場所なのに、居場所がなくて。あいつの事ばかり思い出してしまう。
 あいつは今、どうしているんだろう……?


 あいつの隣に居るのは心地よかった。飾らない自分を見てくれる。唯一、演技をしなくてもいい場所。ありのままの俺を受け入れてくれる場所。

 でも、あいつの隣に居るのが苦しくなった。色んな感情が渦巻いて、何もかもを壊したくなるような衝動。大切なのに、大事にしたいのに、傷つけて、泣かせて。…何もかもが、嫌になった。

 だから、離れようと思った。そうすれば、楽になれると思った。

 でも……。全然、楽になんてなれなくて。どんどん苦しくなる。どうやって今まで呼吸をしていたかも分からなくなるくらいに。


 あいつに会いたい。あいつの声が聞きたい。あいつに触れたい。あいつに……。



 家に戻り、母親が何か言いかけるのを無視して部屋に入る。殺風景な部屋。息苦しい部屋。でも、他に居場所もない。

 机の上に紙袋が置かれているのに気がついた。中を覗いてみると、ピンク色のリボンがかかった箱が入っている。紙袋の傍には、メモ書きが。じいさんからだ。
 メモを読んでいて、眼がうるんでいるのに気づいた。
「ばかだな、あいつ…」
 俺のいない珊瑚礁に、持ってきてくれたというその箱はじいさんが届けてくれたらしい。じいさんのメモには、俺の事を気遣う言葉が綴られていて。そして、あいつの事も…。
「何で。こんなの…」
 殺風景で、息苦しくて、寒々しい俺の部屋の中で、その紙袋だけは鮮やかな色彩を放っていた。


 少し不格好なそのチョコレートを見ていると、自然と口元に笑みが浮かんでいた。しばらく忘れていた感情。
 ひとつ、指でつまんで口に放り込む。甘くて、ほろ苦い味が口の中に広がった。


 もう一度…。もう一度だけ、頑張ってみようか。
 苦しくても、みっともなくても、それでもあいつが傍に居てくれるなら…。


 ふと、あいつが笑ったような気がした。



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mixi限定公開日記でBGM付とか称して書いてるモノの一つ。

この時の曲は、コブクロ「風見鶏」でした。


1月31日の「頼むよ、耐えられないんだ!」の後、実家に帰って悶々としている瑛くんです。

きっと悶々としていたに違いない!

そして一人でフラフラ街に出歩いて、ついついデイジーを探している自分に気がついて「俺、何やってんだ」とか思っていたに違いない。


…えっと、あくまで捏造ですから(笑)