【約束】
(…遅いなぁ。待ち切れないから、テレビ見ちゃおうかな。でも、直接結果を聞くまで待つって約束したし…)
高校を卒業して4年が過ぎた。短大を卒業してすぐに就職した私は、今や独り暮らしをしている。そんな私が待ちわびているのは、高校卒業をきっかけにつき合うようになった彼。
大学野球の選手として、優秀な成績を収めていた彼は今、大事な局面を迎えている。…そう、大きな球団との契約交渉だ。
時計とテレビを見比べながら、うろうろと部屋の中を歩き回る私。待ってるだけの時間て、どうして遅く感じるんだろう。
ようやく、玄関のチャイムが鳴った。慌ててインターホンを取ると、待ちわびた声。
『…オレ』
「勝己くん!い、今、開けるね!」
バタバタと玄関まで走って行って、ドアを開けた。そこには、いつもと変わらぬポーカーフェイスで立つ彼。その表情からは、いい結果か悪い結果か読めない。
「ど、どどどどどどどうだったの!?」
「…とりあえず、上がっていいか?」
「あ、うん!ど、どうぞ」
部屋に招きいれながら、内心穏やかではない私。うぅ、自分の事のようにドキドキする。どうして勝己くんはこんなに落ち着いているんだろう?
「で、どうだった…?その、契約交渉の方は…」
「……」
「か、勝己くん…?」
私の問いに、彼は黙って俯いてしまった。普段から無口な人だけど…もしかして…。
「あ、あの…。もしかして、ダメ、だったとか…?」
恐る恐る聞いてみても、勝己くんは俯いたまま。どうしよう?オロオロとする私。
「……く」
「?」
「クククク…」
ふと見ると、勝己くんの方が小さく揺れている。顔を覗き込むと、堪え切れないといった感じで彼は笑っていた。
「…あ~!また、人の反応を見て楽しんでたでしょ!」
「ククク、悪い。つい…」
「もう!すっごく心配したのに!」
いつもこんな調子で、彼には遊ばれてばかりだ。本気で心配したのに…。思わず膨れて、背を向けてしまった。
そんな私を優しく呼ぶ彼の声。
「…そんなに怒るな」
「だって…」
膨れたまま背を向けていると、背後からふわりと優しく抱き締められた。
「悪い…。そうやって、お前がいつもオレの事を案じてくれているから、オレは前に進み続けられる」
「勝己くん…」
「初めて会った時から…。お前がいなきゃ、今のオレは野球を続けてなかった。だから、感謝してるんだ」
そう言いながら、勝己くんは私の左手を取った。そして、その薬指に見たことのない指輪をはめた。
「…!これっ…」
「予約」
「予約…?」
「ああ。いつか、ちゃんと野球で活躍できるようになったら、本物を渡す。それまで…オレの傍で見ていてくれ」
「勝己くん…」
思わず目頭が熱くなった。そんな私を、彼は優しく抱きしめてくれた。ずっと、いつまでも…。
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卒業後妄想は、ついつい若王子先生に走りがちなので…ちょっと頑張ってみました。
高校卒業してから4年、デイジー社会人、志波くんは一流体育大学卒業間際。
4年間大学野球で活躍して、プロ野球もしくは実業団の球団との契約交渉中という設定です。
mixiマイミクさん一部限定公開日記で「予約」というのが志波くんぽいとお褒め頂いた1品(*^.^*)