最近のオタク文化について3 ~アニメ市場の変化について~ | 十姉妹日和

十姉妹日和

つれづれに書いた日記のようなものです。

これまで、比較的にオタクの動向や変化という観点から、オタク文化を考えてきました。

そこでもう少し今日のアニメやオタク文化を取り巻いている状態を知るために、今回は様々なデータの面から見ていきたいと思います。


ここ十数年の間に、テレビアニメの放送本数はどのように増えてきたかを見てみますと、今日のアニメを取り巻く環境はかつてないほどに、増加していることがわかります。


1986年には放送本数63作品だっのが、1995年には87作品、そして1999年には149作品と増加した後、2004年にはついに200作品を超えました。


http://gigazine.net/news/20121003-tv-animation-history/  (より)


その後、2006年に279作品を記録した後、やや減少傾向に転じたものの現在(2012年末)も年間製作本数200作品の水準を維持していますし、アニメの放送形態もネット配信や、アニメを専門にしたCATVなど様々になってきました。


もちろん、これは過去にも例がなくまさに現代はアニメ文化の最盛期といってもいいかも知れません。

しかし、視聴者がそれについていけているかといえば、必ずしもそうではないと思うんです。


八年ほど前だったと思いますが、あるアニメ雑誌でスタッフが「一週間のアニメをすべて見る」という企画をやっていました。
これを2004年としますと、当時の放映本数は203作品ですから、一クールに放送される作品数は継続、長期放送作品も含めておよそ60作品程度ではないでしょうか。

こうなりますと、すべてをチェックするために必要な時間も膨大になってしまいます。ですから、この企画も途中からはアニメの内容を楽しむよりも、見終えることを目標にした体力と気力の勝負になっていたような感じでした。


これに、現在のようなアニメ専門チャンネルの再放送なども加えれば、ほぼアニメ作品をすべてチェックするのはほぼ不可能だと思います。

「こち亀」でもそんな話しがあったと思いますが、すべての番組を録画して三倍速で再生して見ないでもしない限り、今放送されてる年間二百本のアニメを網羅するのはほとんど不可能に近いのではないでしょうか。


ところで、こうしたアニメ作品の放送に比べて、アニメの市場が拡大しているのかといいますと、日本動画協会による興味深い調査があります。

これを見てみますと、意外なことに放送作品数の増加に比べて、近年の業界動向は、むしろ一時期よりも減少する傾向にあるともとれる部分があるんです。


日本のアニメ市場・産業の推移

http://www.aja.gr.jp/data/index.php


この調査のうち、広義のアニメ産業に占める「遊興」はパチンコとなっていますが、こういった「新たに計上された部分」はそれ以前のデータには加味されていないと思いますから、やや注意しなければいけません。

アニメのパチンコ化は、これ以前からも度々行われていましたら、それ以前のデータには反映されていないことになります。


そうしますと、アニメ産業で急速に発達しているのはとくに「劇場」の割合が大きく、市場全体では「商品化」の伸びが著しいのがわかります。

「劇場」は、これは劇場公開アニメのことだと思いますが、とくに2008年に大きな数字が出ているのはスタジオジブリの「崖の上のポニョ」がこの年に公開されたことなども影響しているのかも知れません。


「商品化」がどこまでの範囲までを含んでいるのかはわかりませんが、キャラクタービジネスや、最近ですと「まどマギカフェ」などもありましたし、あるいはまたゲームやコミカライズなどもここに入って来るのかも知れません。


そして、アニメの業界市場では以前「テレビ」が強い一方で「ビデオ」(DVDやBD)の市場が縮小していることがわかります。やや意外だったのは、「けいおん!」と「化物語」が放送された2009年の「ビデオ」があまり伸びていないことです。

同じくこの年には「劇場版ポケットモンスター」、「エヴァンゲリオン新劇場版 破」、「サマーウォーズ」などのヒットがあり、アニメ映画の当たり年であったとされていたのですが、数字を見るとけして高くはないんですよね。


http://www.animeanime.biz/all/2010012803/


この記事によりますと、上記三作品の興行収入はおよそ102億円ですが、「ポニョ」の興行収益はおよそ155億円と、ジブリ作品の人気がやはり高かったのかも知れません。

しかし、同じく歴代興行収入を塗り替えた「ハウルの動く城」の公開された2004年に比べますと、それを上回っていますからアニメ映画の本数そのものは非常に増え、また十分な収入を上げる作品も増えて来ているのはいい傾向だと思います。


ですが、「子供向けアニメ」とされている、「ポケットモンスター」、「名探偵コナン」、「劇場版ドラえもん」が大きな収入を出していることを考えますと、アニメ産業と、オタク産業とは、これはあくまでイコールではないのかも知れません。

ただ、こういったテーマはここで扱いにはやや難しい部分もありますので、ここでまたテレビアニメの方に目を戻しましょう。


こうした近年のアニメ作品の増加の中で、ほぼ毎年のように名作、人気アニメが誕生しているのも興味深いことです。


2004年には「ケロロ軍曹」が放送を開始し、「プリキュアシリーズ」の放送もはじまりました。「リリカルなのは」のヒットがあったのもこの年です。

2005年には「魔法先生ネギま!」、「エウレカセブン」、「創聖のアクエリオン」。

最もアニメ作品の多かった2006年には「ローゼンメイデン」、「プリキュア」などの人気作の続編が放送され、記録的な大ヒットとなった「涼宮ハルヒの憂鬱」、「ゼロの使い魔」や「コードギアス」など、非常に充実したラインナップになりました。


2007年は「らき☆すた」、「さよなら絶望先生」、「ガンダム00」。

2008年には「狼と香辛料」、「絶対可憐チルドレン」、「ストライクウィッチーズ」、「とある魔術の禁書目録」と、人気作が続きます。

2009年には「けいおん!」がはじまりますし、その他の話題作としては「咲-saki‐」、それに前述のDVD初動売り上げで過去最高(当時)となった「化物語」があります。


2010年には「バカとテストと召喚獣」、「侵略イカ娘」。

そして2011年には「魔法少女まどか☆マギカ」、「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」、「ゆるゆり」と、近年ではかなりのヒット作に恵まれた年になりました。

どの作品も、名前を聞けば「ああ、あれか」と思う人がいるのではないでしょうか。

ボクもほとんどアニメは見ていませんでしてけれど、大体いくつかは見た覚えがあります。


こうしたアニメと同じように、近年大幅に市場の供給が増えたのが「ライトノベル」です。


出版不況の中でも売上げを伸ばし続けるライトノベル市場、その要因は?

http://okanehadaiji.doorblog.jp/archives/6829338.html


元の記事は現在すでに見ることはできませんが、まとめサイトに残っているものによりますと、ライトノベルの市場は2004年から2012年までの間におよそ十三%増加しているとなっています。


ボクたちが、ちょうど小学生のときに「スレイヤーズ」のブームがあって、はじめてライトノベルというジャンルが知られるようになった頃からすると、これは本当に隔世の感がありますよね。


ところが、ライトノベルの年間発行点数(部数ではありません)はどのように推移しているかを見ますと、まとめブログのコメントで指摘されていた人もありますが、こちらは売り上げの増加と比較しても、さらに増加が激しくなっています。


http://f.hatena.ne.jp/yuki_tomo624/20120122231451


2005年には年間発行点数が600点にとどかなかったライトノベルが、2012年には1000点に達しようという勢いがあり、こちらはほぼ1・5倍に供給が増えていることになります。

また、2004年度との比較で「十三%」の伸びとありますが、これはライトノベルの売り上げが必ずしも「右肩上がりで売り上げが伸びている」わけではなく、あくまでも2004年と2012年の比較であることは注意しないといけません。

その点についても、より詳しく分析されている方のブログがありましたので、紹介させていただきます。


http://lightnovel.g.hatena.ne.jp/REV/20111026/p1


こちらの情報では、やはりアニメの放送作品の多かった2006年が突出していますね。その後は2007年に一度落ち込んでから、ほぼ堅調なペースで伸びているということになるのではないでしょうか。


こうした構造の背景には、過去に「涼宮ハルヒの憂鬱」や「スレイヤーズ」などが、アニメの売り上げと、原作の売り上げによる相乗効果による成功モデルがあまりにも強烈な印象になったために、出版社もできるだけたくさんの作品を出版し、人気の出たものを積極的にアニメ化させるという意図があるように思います。


ただ、こうした状況から「ハルヒ」のようなホームランバッターは別としても、効率的にファン層を獲得することのできるアベレージヒッターを探し、有望な新人を打席に立たせているような部分があるのは確かだと思うんです。



現在のライトノベルの状態は、ボクもあまり読んでいませんから内容の評価はできません。

ですがアニメ、ライトノベルの増加を考えますと、オタクが大量消費になったという指摘はむしろ、すでにそういった構造になっている市場に適応する手段が、取捨選択でしか残されていないためだと、そういう見方をすることができるのかも知れません。


ところで、このような「供給の増加」に対して、「消費の拡大」がどの程度伸びているのはかは精密なデータはわかりませんが、先ほどのブログにもあった矢野総研の調査によりますと、おおよそ次のようになっているそうです。


http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1210/15/news079.html


全体として、オタク市場の成長は堅調に推移しているとありますが、一方で個別の分野を見ますと、オンラインゲーム市場の大幅な成長が見られるのに比べて、ライトノベル、同人誌、フィギュアなどの市場は微増にとどまり、「まどか☆マギカ」や「Fate」シリーズの誕生に貢献したアダルトゲーム業界の市場が縮小傾向にあることもちょっと気になるところです。


ただ、お断りしておきますがこうした市場の動向から、市場を批判することが今回のブログの目的ではありませんし、今後どうなるのかの予測もこれはやはり難しいと思います。

しかし、こうしたデータを見ていきますと、単純に「日本のオタク文化は商業的に成功している」かといえば、けしてそうではないとも思うんです。


むしろ、こうした現在のオタク産業を取り巻く状況は全体の市場の縮小の中での、相対的な増加だといえるかも知れません。


ちょうど家庭用ゲーム機を考えていただければいいかも知れません。

最も家庭用ゲーム機や、ゲームソフトが売れていたのは、これはたぶんファミコンからプレイステーション2までの間だったのではないでしょうか。

それはゲームファンがそれだけ増えたというよりも、「テレビゲーム」が娯楽として普及していた時期がその頃だったからだと思うんです。


しかし、今日ではすでに世間の需要が携帯ゲームなどのより手軽にできるオンラインゲームや、ゲーム性よりも、遊びやすさと手軽さにシフトした携帯ゲームの台頭で、家庭用ゲーム機の「ブーム」に区切りがついた、という見方はできるんじゃないでしょうか。

だとすると、むしろ今日のゲームの需要はむしろ一時的なバブルの、その後の状況なんだという気もするんです。


こうした娯楽は時代とともに推移するものですから、ちょうどCDもそうですね。

九十年代のCD売り上げは、毎年ミリオンセラーが次々に出るという驚異的なものでした。ところが、現在はCDの売り上げが伸び悩んでいて、業界が様々な対策を打ち出すまでになっています。


けれども、アニメ産業などはこうしたブームにさらされた経験がほとんどなかったように思うんです。

現在のアニメやライトノベルなどのオタクブームといったものの背景にあるものも、こうしたテレビ、出版業界といった「メインストリーム」の低迷が大きく影響しているんじゃないでしょうか。


そうした中で、特定の市場が堅調な成長をある程度維持していれば、これは「有望」だと思われてもおかしくはありません。

ですが、これはあくまでも「相対的」に見た場合です。

これが現在の市場に対する評価を見ていますと、混同されていることが大変多いように思うんです。

例えば、テレビ局では東京MXの収益が増加したというニュースがありました。


http://www.animeanime.biz/all/1211281/


記事によりますと、地上波放送のスタートで視聴者が大幅に増えたことに加えて、とくにメインの視聴者層をアニメが好きな人たちにしぼったことで、結果的に収益が伸びたケースだと分析されていますが、これはかなり的確だと思います。


アニメに限らず、CATVの時代劇専門チャンネルでも、これとまったく同じような現象が話題になりました。


http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0808&f=business_0808_043.shtml


最近はもうテレビで時代劇を放送しても視聴率はあまり獲れないといわれていたんですね(もちろん、「仁―JIN―」などの例外はありますが)。

NHKの大河ドラマでも、前年の「平清盛」の視聴率があまり芳しくなかったことに加えて、かつてはTBSの人気番組だった「水戸黄門」ですら現在はすでにレギュラー放送が終了しています。

その中で、時代劇を専門に放送するチャンネルが支持を伸ばしたことは一見奇妙に思います。

しかし、この二つを結ぶキーワードとして、水戸黄門の「再放送」がかなり安定した視聴率を確保していたという興味深い出来事があったんです。


http://www.narinari.com/Nd/20090411453.html


夕方の四時に視聴率七%超えは、これはかなり高い方だといってもいいんじゃないでしょうか。

もちろん、記事の主旨とはだいぶ違いますけれどね。

同じ時代劇にも関わらず、一方ではレギュラー番組の視聴率が悪く、他方では再放送の視聴率がいい。一つの局の中でそうした現象が起きていたんです。


この二つを比較しますと、面白いことがわかってくるように思うんです。


一つは、現在赤字に転落したかつての「メインストリーム」といわれた市場のほとんどが、そのターゲットを「大衆層」にしていたということです。

これは「水戸黄門」のレギュラー放送も同じでした。

この場合の「大衆」という言葉は、あくまで「オタクという狭い視聴者」に対してのもので、言い方を変えれば「広い視聴者」としておいた方がいいかも知れません。


ところが、「大衆」の好みは非常に移り気なんですよね。

そして、それが世間とずれたときには、たちまちのうちに見向きもされなくなってしまいます。


一方で、オタクや愛好家は、好みが極端に変わるということはあまりないように思います。

とくに、時代劇の場合には目新しいものを求めるよりも、すでに見ることのできない過去の名優や、名作をもう一度楽しむことができるというのが、愛好家にとっても大きな魅力だったのは間違いありません。


もう一つ、こちらは特撮ですけれど、近年ですと「ウルトラマンメビウス」に過去のウルトラマンと、それを演じた俳優さんたちがそのまま出演して過去作品のファンを喜ばせてくれました。こういった、その作品を長年愛しているファンへのサービスは、アニメでもそうですが今後重要かも知れませんね。


しかし、あくまで時代劇専門チャンネルや、東京MXの収益はメディア全体から見れば小さな市場であることには変わりがありません。

ですから、これを直接テレビ業界全体に当てはめることはできないと思います。


ボクはでも、オタク産業というのは基本的にそういうものだと思うんですよね。

それを大きな市場と考えれば、非常に難しいかも知れませんが、その担い手はあくまでも全体からすればわずかであって、その中で評価されて、そして回っていくものじゃないでしょうか。


それが「大きな市場」が減少しているために、「小さな市場」が注目されたことで、あたかも急激にそれが成長しているように思われたのではないでしょうか。


ですから、こうしたアニメブームとされている中で、オタクが世間に受け入れられたと考えたとしたら、たちまちそんなことはないといわれてしまうんだろうと思います。


最近でも、アニメや漫画の規制問題を見ていて、何度となくそう思うことがありました。


こうしたときに、人はときとして自分たちが全体の中のほんの少数だということを、理論が正しい、意見が正しいということと混同して忘れてしまいやすいところがあります。

ですから、それは政治問題への意識の高さですとか、社会性ではけしてないんです。

ただ、多くの人の関心事がそこにはなく、世間からはけして大きな問題だと思われていなかった、ということが一番強く背景にあったんじゃないでしょうか。


もちろん、それは一方では「アニメ、漫画は日本の文化」といいながら、他方ではそういったものをほとんど理解しようとしない、政治や国のいい加減さもありますけれども。


これはネットとマスメディアの関係にもちょっと近いところがあります。

今後、テレビや新聞が国民の支持を得られなくなる、という可能性は十分にあると思うんです。

しかし、それで意見の中心になるかといえばそんなことはけしてありません。

なぜなら、ネットはけして「世間」を見ていないからです。

もちろん、だからこそ楽しいという部分もたくさんあるんですけどね。

もし、ネットがリアルと同じようなものになってしまったら、これはやっぱり面白くないと思います。


そういった意味で、「オタク」というのは現代的な一つの傾向であると同時に、やはりネットの中心にあるのはオタク的なものだと思うんです。


今回はなんだかデータばかりの話になってしまいましたが、次回からはまた「オタク」というものに戻って考えてみたいと思います。


だいぶ長くなってしまいましたが、今回も読んでいただきありがとうございました。