「三酸図(さんさんず)

私の好きな画題のひとつです。



左から、儒家、仏僧、道家。

それぞれ思想・生き方の異なる人たち
一つの甕を囲んでいますね。

「三酸図」という題からもわかるように、
甕の中には酸っぱいものが入っていて・・・


指につけてひとなめ、そして皆で、

“うん、酸っぱい!” と言っているところ。



とてもシンプルで興味深い画ですよね。

(真意を理解し行動に移してこその画ですが…)



“酸っぱいもんは酸っぱい!!”  と。


教え(教え方)はちがえど、三教一致。

真理はひとつ。


“そこ(共通する部分 = 真理)”を見ようよ、と。



もちろんこの画はひとつの“比喩”であり、
“象徴”としての人物像なので、
「三者」、「甕」は自由に置き換えられますよ。


以前の記事『一月三舟』でご紹介した
『名数画譜(めいすうがふ)にも
この「三酸図」が登場します  ↓






儒家、仏僧、道家の三人は
「三聖(さんせい)とも称されます。


ちなみに『名数画譜』には
「三星(さんせい)図」というものが載っていて、




「三星」は
七福神のひとり福禄寿(ふくろくじゅ)のこと。


福禄寿はもともと福星・禄星・寿星の三星を
それぞれ神格化した三体一組の神でした。

とくに明代以降に民間で広く信仰され、
春節の時節には
福・禄・寿を描いた「三星図」を飾る風習が
あります。



一方「三聖(さんせい)の源流には、

古代中国の伝説上の人物(神・皇帝)、
三皇(伏羲、神農、黄帝)を描いたもの、或いは、
釈迦、孔子、イエス・キリストの三人、

或いはこの掛軸のように、
孔子、釈迦、老子の三人を称する場合があり、
「三教(さんきょう)図」という画題で描かれます。

「三教図」から派生したものが「三酸図」。


『名数画譜』附録より


「三酸図」の由来は北宋代、

魯直(こうろちょく)とその友人蘇東坡(そとうば)
金山寺の住職佛印(ぶついん)を訪ねたとき、

桃花酸(とうかさん)という酢をなめ、
三人とも眉をひそめたという故事を称して
“三酸”とする、とあります。



儒教、仏教、道教、

教えはちがっていても根本はおなじ(はず)。


知識や思想のちがいで争うのは愚かなこと。

最近は“価値観の多様化”などという言葉が
各方面で目立ちますが、

今頃? 今になって? 今さら?  、、、
という気がしてなりません。

そもそも“人それぞれ”なわけで。




この画と向かい合う度に、


“人の本質はなにひとつ変わっていない”

“簡単に変わるものではないことを思い知れ”

と先人たちに厳しく諭されているようにも、
私は感じます。


意味を知らなければ、
ただの“楽しそうな画”で済んだのに…


それでも、私の好きな画題なのです。




辛丑 秋分後五日 
KANAME



【関連記事】

2021年8月24日 投稿