「保育園落ちた日本死ね!!に異変 コロナ下の保活事情
保育園に預けないと働けないのに入れない。
2016年に「保育園落ちた日本死ね!!!」と窮状を訴える匿名ブログが共感を集め、社会問題化した。
インパクトのあるメッセージに、記憶する人たちも多いのではないだろうか。
あれから6年。
保育園の入園事情に「異変」が起きているという。
東京23区の一部では“激戦”だった乳児クラスでも定員割れが目立つ。
本当に希望すれば預けられる時代がやってきたのだろうか。【安藤龍朗】
東京23区、入園担当者は“異変”を実感
東京23区では、保育園入園に向けて相談業務を行う区の担当者が「異変」を感じていた。
「昨年度から0歳児クラスの定員割れが目立ち始めました。
今までは空きがあっても5月以降にすぐに埋まっていったのですが……」(目黒区保育課)。
「一時期に比べると入りやすい状況かもしれません。
競争率が高かった1歳児クラスでも空きが出てきたのが今年度の傾向です」(板橋区保育サービス課)。そのような状況に、コロナ禍の影響を指摘する声もある。
中央区保育課の古賀政成課長は「窓口や電話の相談を受ける中で、感染を心配して、預けるのを控えている動きがみられます。
親の働き方もテレワークなどに変わり、遅くまで預ける必要がない場合もあります」と話す。
23区の認可保育園を対象に、各区役所に取材したところ、0歳児クラスの空きが最も多かったのは板橋区245人で、文京区234人、品川区219人、足立区219人と続く。
100人台の空きは12区あった。「激戦」とされる1歳児クラスでも、計17区で50人以上空いている。東京23区全体では、0歳児が計3150人、1歳児は1677人に上った。
激戦区では、第100希望まで書いた保護者も
ほんの数年前までは考えられない事態ではないだろうか。
「皆さん、第20希望まで書きますよ」。板橋区在住の会社員女性(39)は、初めてのいわゆる「保活」で区役所の担当者が話した言葉をよく覚えている。19年度に長男を0歳児クラスに入園させようと、保育園を探していた時のことだ。
自治体により異なるが、母親と父親がフルタイムで働いている場合、保育の必要性を点数化した指数はほぼ同じところに並び、兄弟在園児の有無や認可外保育園の利用歴などで加算される――というのが一般的な「保活」の仕組みだ。この女性は自宅からの通園時間は片道20分以内が限界と考え、結局は第4希望まで書いて提出した。運良く入園できたものの、女性は「1回目の募集で入園が内定しなかったら、次の募集で、2歳児クラスまでしかない小規模保育所なども視野に考えなければと思っていました」と話す。板橋区によると、以前は入園希望を書ける数に制限はなかったという。まさに「保育園落ちた日本死ね」の16年ごろ、入園を希望する保育園を100園ほど書き込んだ申込書が届いたという。関係部署で「上限が必要ではないか」と議論になり、17年度から「第20希望まで」に変更したのだという。希望してよいのなら、書けるだけ書く。当時の「保活」の苛烈さを物語るエピソードだ。
一方で、前出の女性は今春、長男(3)と同じ保育園の「1歳児クラス」に妹の長女(1)をスムーズに入れることができた。
背景に保育園新設ラッシュと少子化
待機児童問題を受け、各自治体は認可保育園の新設などの取り組みを進めてきた。板橋区の場合、16年は私立の認可保育園は67園だったが、22年は103園まで約1・5倍に増えた。保育の需要に数値上は供給が追いついてきた状況を踏まえ、22年度は新設の予定はないという。
板橋区保育サービス課によると、0歳児から5歳児クラスまでの定員数(認定こども園などを含む)については、21年は計1万3544人で、16年と比べ2855人増加。入園を申し込んだ人数は、21年が1万3185人で、1710人増えている。一方で、少子化の影響で22年の就学前児童数は16年と比べ3114人少ない2万3092人と減少傾向にある。
板橋区の場合、保育園に入りたいニーズは増えている一方、それを上回るペースで入園可能な枠が広がり、子どもの数自体は減ってきたということになる。同課の飯嶋登志伸課長は「空き状況を見て、預けられるなら働こうという人が出てくる可能性もあります。今後どうなるか、もう少し推移を見ていかなければなりません」と指摘する。
待機児童解消を目指してきた団体は
待機児童解消を目指して活動してきた市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」の天野妙代表(東京都武蔵野市)は、0歳児に定員割れが目立つ状況について「コロナ禍で、育児休暇を延長される方がとても増えています。集団生活に伴う感染リスクがある中、復職して育児と仕事を両立させるのは難しいですよね。今までなら0歳児で入園を考えていた人が1歳児クラスに切り替えているようです」と分析する。
空きがある一方で、入園できない待機児童もいる。都市部と郊外のベッドタウン地域では状況も異なるようだ。天野代表は「定員割れで入園が可能だからと言っても、自宅から遠い園に通うのは厳しい。親が毎日通園できると思える状況を行政が探ることが大切です」と指摘する。今春の入園に向けても「『保育園落ちた』と落胆するツイッターの投稿をいくつか目にしました。思っていたより多かった印象でした」と話し、待機児童は解消されたと言い切れるわけではないようだ。
保育園の定員割れ、新たな課題も
厚生労働省によると、21年の出生数は84万2897人(速報値)で、前年に比べ2万9786人減り、過去最少を記録した。保育政策に詳しい日本総研の池本美香・上席主任研究員は「待機児童数が悪化する要因は見当たらない」とした上で「出生数の減少に加え、女性の就業率はずいぶん上がり、伸びる余地は少なくなってきています。コロナ禍の影響でどんどん預けようという雰囲気でもないので、保育園に空きが出る流れはまだ続くでしょう」と指摘する。
池本さんは、保育現場がコロナの感染防止対策に苦しむ一方で「保育園が本来あるべき姿」に気付かされる場面があったという。「定員いっぱいに子どもたちがいるのが保育園というイメージでしたが、コロナで登園自粛になった時に、保育園の先生たちから『子どもが少ないから落ち着いて、ゆとりを持って保育ができました』という話をあちこちから聞きました」
ただ、定員割れで経営状況が悪化したり、閉園に追い込まれたりする保育園もあり、新たな課題に直面している。池本さんは「子どもが減っていくことを想定した経営存続や廃園のあり方について検討が必要だと感じます」と指摘し、制度改革を議論していく必要性を訴えた。
