◆兼原信克『安全保障のリアル。現実主義者のための』を読む
副題→「中国は必ず台湾、尖閣、南シナ海奪取に動く」
★要旨
・21世紀、新超大国、中国の台頭がもたらす緊張は、
誰の目にも明らかになった。
第一に、中国自身が超大国化している。
第二に、中国のナショナリズムである。
2008年のリーマンショック後、
中国は西側の凋落を確信した。
大中華の自尊心が膨れ上がる。
第3に、中国共産党は中国史上初めて、
津々浦々に支配のネットワークを張り巡らせた。
・超大国化した中国が最初に狙う大きな獲物は、
日清戦争の結果、日本に奪われ、国共内戦で蒋介石が
逃げ込んだ台湾の併合である。
・台湾併合を唱えることは、中国共産党の正当性を担保する。
独裁を続ける中国共産党が権力に居続ける理由は、
「日欧米列強と蒋介石を中国大陸からたたき出し、
繁栄する強国をつくり上げたのが中国共産党である」
という建国神話が求められる。
・その建国神話の有終の美は、
台湾併合でなくてはならない。
当然、台湾の人々の自由な意思は、
蹂躙されることになる。
・3四半世紀の間、言論の府たる国会と日本政府は、
国民に対して、現実的な戦略論、軍事論を提示することを怠った。
例外といえる首相は、吉田茂、岸信介、中曽根康弘、
小渕恵三、小泉純一郎、麻生太郎、安倍晋三の
7人のサムライのみである。
・台湾有事は、日本有事である。
・居合の構えが、紛争を抑止する。
・安全の花壇があって、繁栄の花が咲く。
・台湾の武力併合は、
建国の父である毛沢東にならぶ業績を求めてやまない、
習近平主席の野心であり悲願である。
・安全保障の基本は、将棋と同じである。
まず、相手の駒揃えを見る。
・中国は、さまざまなシナリオで
台湾侵攻の能力を備えつつある。
能力が備わってしまえば、あとは、
最高指導者の意思とタイミングだけの問題となる。
・台湾侵略に現実味はある。
中国を関与し、台湾海峡の平和と安定を確保し続けることが、
日本にとって、米国にとって、
最優先の外交課題であることは言うまでもない。
・「まさか」に備えるのが安全保障である。
防衛力整備には巨額の予算と長い時間がかかる。
・米国の太平洋同盟国も、あてになるのは日豪だけである。
・まずは16万人を数える台湾軍が、
どれほど持ちこたえるかが、カギになる。
米軍の本格的来援には時間がかかる。
・台湾有事は日本有事である。
中国軍は台湾侵攻の際、
あらかじめ日本の防衛力の一部無力化を図るだろう。
尖閣諸島は、中国にとって台湾の一部である。
・南西方面で、
中国はサイバー攻撃や電磁波攻撃によって、
自衛隊が依存する通信網や電力網などの重要インフラを破壊し、
自衛隊の戦闘能力を奪ってくることも考えられる。
・佐藤首相の兄、岸信介首相が政治生命と引き換えに
改定した日米同盟は、米軍が日本を核として守りながら、
日本にいる在日米軍が日本の基地を使って、
周辺の韓国、台湾、フィリピンを守るという構図が、
基本になっている。
・台湾はいま、自由の島である。
・居合の構えが紛争を抑止する。
台湾有事は起こさせてはならない。
・台湾有事が起きれば、米軍の本格来援まで、
台湾と日本が矢面に立つ。
日本は西太平洋の出城である。
・有事が起これば、数多くの在中国日本企業も、
米国企業も、出国を拒否され、送金を遮断され、
人質に取られるかもしれない。
・日本が輸入のほとんどを中国に依存する
レアアースも止まる。
・台湾が破壊されれば、
世界の最先端微細集積回路を搭載した、
半導体製造を一手に引き受けているTSMCは、
破壊されるかもしれない。
クリーンでデジタルな未来社会を支える半導体は、
現代社会の基盤たる戦略物資である。
・孫子の兵法の中国は、敵の虚をつく。
静かに腰を落とし、柄に手をかけて、
居合の構えを見せていれば紛争は起きにくい。
ぼーっとしているとまた「予想外」の有事になる。
・最高指揮権を持つ指導者が軍に出動を命じるとき、
それをだれも止めることはできない。
誰かが最高指導者を暗殺して命令を変えない限り、
軍は怒涛のように動き始める。
軍を止めるのは、軍しかいない。
・台湾海峡紛争を抑止すべきなのは当然である。
外交努力を積み重ねるのも当然である。
・外交が行き詰ったとき、
紛争が武力紛争に転じないように、
構えているのが軍の仕事である。
最良の結果を生もうとするのが外交官であり、
最悪事態に静かに備えるのが軍である。
・なぜティックトックは駄目なのか。
入力しているさまざまな情報、姓名、生年月日、
位置情報、クレジットカードの番号が、
おそらく全部、中国のサーバーに抜かれているからだ。
・彼らはそれをスーパーコンピュータを使って
高度なインテリジェンス情報に加工できる。
ごみの山からダイヤモンドが生まれるのだ。
AIは、人間がペーパーで情報を分析すれば
数年かかる作業を一瞬でやってしまう。
・一見どうでもいい大量のデータ自身が、
人工知能のおかげで
非常に価値の高いインテリジェンスを生む。
宝の山なのである。
中国やロシアには、これらはそもそも個人情報だから
盗んではならないなどという遠慮はない。
・20年前、小泉純一郎首相が
アフガニスタンでの米軍による
「不朽の自由作戦」に対して、
海上自衛隊の護衛艦などを派遣した。
首脳間では、人の戦争に自国の軍隊を出すというのは、
相手への最大級の貸しになる。
・デジタル・インテリジェンス・コミュニティは、
世界中の国にあって、
その中核は外務、防衛、情報機関である。
・日本政府は、いつも電話連絡で「もしもし」なのだ。
さすがにファックスでのやり取りはやらないが、
もっとも危険な情報のやり取りは、ペーパーで行う。
絶対にハックされないので安心ではある。
サイバー・セキュリティの脆弱さと、
その怖さを知っているからこそ、
ペーパーに逆行するのである。
・イスラエルのベエルシェバには
世界最高のデジタル・セキュリティの本拠地があって、
世界中の才能が集まっている。
・依然として日本のサイバー・セキュリティは
少年ハッカー対策のレベルにとどまっている。
外国の軍や諜報機関のプロが突っ込んできたら、
一瞬でやられてしまう。
・デジタルの世界やAIの世界は、
民間のほうが軍より強い。
★コメント
長年、政府中枢にいた人物の言葉には重みがある。
学び取りたい。