◆佐々木崇夫『アサヒ芸能と徳間康快の思い出』を読み解く
タイトル→「三流週刊誌編集部」
★要旨
・私は生来、ズボラで怠け者ときている。
資料の整理すら覚束ないはずなのだが、
不思議なことに記者時代の取材帳だけは未だに保管している。
・「事件」「風俗」には版権も特許もない。
事実関係と客観状況、そして記者の目と足があるだけだ。
・さまざまな夕刊紙、週刊誌、月刊誌などから
雑文を依頼されるようになるのだが、
ダンボール箱の中の取材帳は汲めども尽きぬ「引き出し」となって
絶大な威力を発揮してくれた。
当然のことながらこの稿の源泉ともなっている。
・昭和42年に、アサヒ芸能出版の入社式があった。
6階の会議室に徳間康快社長以下7人ほどの役員クラスが居並び、
新人の9人がその前にかしこまる。
・社長訓辞。
私はまたまた度肝を抜かれてしまう。
「今年は500人になんなんとする受験者のなかから
じつに有為な人材を得ることができた。
我が社の躍進は保証されたようなものだ。
喜ばしい限りだ」
・名調子の世辞である。
余談だが、私が長く出版業界いや広くいえば、
マスコミ界で禄を食む間に、
徳間康快ほど弁舌さわやか、話のうまいトップに
お目にかかったことはない。
・ツボを心得ているというか、
場所、時、そして現在只今の聴衆の有様を的確に判断し、
聴き手を決して逸らさない話術は見事に尽きた。
・だが、入社式の訓話から受けた徳間康快のイメージは、
大風呂敷を広げる「法螺吹き男爵」だった。
近い将来、自社の屋上にモノレールの駅を引き入れる、
と言い放ったのである。
・徳間康快には、新聞記者時代に培ったと思われる、
閃きとフットワーク、バイタリティ、
そして知らず知らずのうちに人を魅了し引きつける、
そのなフェロモンが漂っていたらしい。
どんな火事場にもほとんど見境なしに飛び込んでいく義侠心。
身の丈に合おうが合うまいが、
左翼だろうが右翼だろうがお構いなしに近づき知遇を得、
場違いな論座にもあの人懐っこい笑みを浮かべて参画する。
・徳間は読売新聞を退職したあと、「真善美社」に入社。
文学史上特筆される真善美社も、
昭和24年、音を立てて崩壊する。
・文無しになっても、徳間康快はめげない。
人を引きつけるフェロモンは枯れることはなかった。
・昭和25年、新橋に新光印刷株式会社が誕生する。
徳間康快はここではじめて社長職を経験することになる。
緒方竹虎は会長に収まった。
・この新光印刷は、
徳間康快がアサヒ芸能出版を足掛かりに、
その後出版、音楽、映画、新聞、観光などと
領域を拡大し、「徳間情報企業集団」として
声高に名乗りを上げていく過程においても、
ひっそりと輪転機を回し続けていた。
・徳間康快が何かの折に
「新光印刷こそが徳間グループの原点だ」
と呟くのを耳にしたことがあるが、
実感だったに違いない。
・「三行記事をバカにするな」
新人のころ、何度叩き込まれたことか。
といって、地方紙に電話を入れれば即事件の裏に密むドラマを
教えてくれるといえばそんなことはあり得ない。
・長年培った地方紙(記者)との
ギブアンドテイクの関係があってのことだ。
驚いたことに、
『週刊アサヒ芸能』のこうしたネットワークは
じつに緻密なもので、ほぼ全国の地方新聞社の間に
張り巡らされていた。
「事件のアサ芸」と称されていた裏事情は
こういうところにもあったようだ。
・ある夜、私は編集長と平塚征部長に呼ばれた。
極秘の話があるから誰にも言わずに某所に来い、
ということだった。
そこで私は編集長から重大な特別任務を命ぜられた。
松川事件の真犯人がわかったので、
その裏取りの担当をせよ、のこと。
作家・畠山清行がもってきたネタだった。
・その後、平塚部長馴染みの銀座のクラブで「前祝い」をし、
翌日から私は国会図書館、日比谷図書館、
さらに大宅文庫にまで通い、
松川事件関連の本、雑誌、新聞を読み漁った。
・21年目にして畠山清行が探し当てた真犯人というのは、
昭和9年、ハルピン訓練所(諜報員養成機関)を終え、
その後、敗戦まで大陸でスパイ活動をして、
GHQのキャノン機関に所属していた経歴を持つ男、
ということだった。
・私は神田の古本屋を軒並み歩き、
「日本の特務機関」「陸軍中野学校」「戦中戦後昭和史」
「OSS」「CIC」「CIA」「GHQ」
「キャノン大佐」関連の書物を片っ端から買い求めた。
・読み疲れ、メモ取り疲れで寝転がったとき、
「俺はいったい何をしているんだ」
との自問自答だった。
・男女事件、犯罪やヤクザ抗争に走り回ったかと思えば、
今度はスパイのお勉強をしろ、という。
並の人間なら頭の中は制御不能の状態になるのが関の山だ。
私が叫び声をあげなかったのは、
ガス抜きの手立てを上手に講じていたからに他ならない。
・酒場に行き、女と遊ぶ。
ときにはその方法も使ったが、
最高のガス抜きは読書だった。
仕事とはまったく無関係の本を読んだ。
★コメント
昭和の時代というのは面白い。
そこから学び取りたい。
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