◆朽木寒三『馬賊戦記。小日向白朗(上)』を読み解く



★副題→「小日向白朗。蘇るヒーロー」



★要旨



★小日向白朗の序文。



・私は、半生の体験がいささか風変わりなものであるところから、

ときに、作家や研究家の人たちに請われて話をした。

そして何度か、私の物語が本や雑誌に書かれた。

しかし、それはいつも部分的な要約ばかりであった。



・朽木君が初めて私のもとに現れた時、例によって彼も、

初対面からまことに熱心に、私の物語を書きたいという。

私は言下にことわった。



・第一に私は、もう簡単な要約文はけっこうなのである。

次にこの連中は書きます書きますとしごく簡単にいうが、

馬賊の頭目の生活はそんなかんたんなものではない。



・ましてや、大頭目といわれる者の複雑多岐な生活を、

いったい日本の作家の誰に書ききれるものかという考えである。

ところが、きっぱり断ったとき、朽木君のしょげ方が余りにひどく、

気の毒になって、では熱河馬賊の三年間だけでも、

雑談風に話してあげようか、となった。



・それが始まりだった。



・朽木君はそれ以来、私のところへ実にまる一年半もの間、

通いつめたのである。

そして熱河がすむと千山、千山がすむと長春というわけで、

ついに海賊船で上海を脱出するところまで、

とうとう彼は私から全部の話をひきずり出し、

忘れていたようなことまでも次から次とほじくり出してしまった。



・その間、かれは更に出版社を説いて1600枚の長大なスペースまで

もらい受けてきたのである。

私もようやく、ああ今度はいつもと調子がちがうなあと、思うようになった。



・さて、いよいよこの本が出来上がって、

こうして目で見、手で触れられるようになってみると、

さすがに感無量である。

私の若かりし日の冒険心、向う見ずな勇敢さ、烈烈の闘志、

そして大満州の広野に馳せた夢想のかずかずがどっとよみがえって、

満身の血潮がたぎるのである。



・馬賊、すくなくとも正統的な遊撃隊の精神は、「仁侠」の一語である。

仁は人を助け、

侠は、命をすてて人をたすけることと言われた。



・本書は、わたしが、自分の大陸生活の全貌を初めて、

人に解き明かしたものである。

朽木君はそれを些末な対話とか、描写に多少の潤色をほどこしただけで、

ほとんど忠実に全編を記述している。



・中国の近代史、現代史と切っても切れぬかかわりをもつ馬賊の姿を、

本書によって初めて知る人も多いのではなかろうか。



★コメント

昭和の文章は、重厚で丁寧で、読みごたえあり。