◆小谷賢『インテリジェンス。国家・組織は情報をいかに扱うべきか』を読み解く




※要旨



・明治時代には幕末の動乱を生き残った政治家がインテリジェンスの重要性をよく理解していたのである。

日露戦争時に日本のインテリジェンスの中心的人物であった福島安正は孫子を師と仰ぎ、

日本の勝利に情報面から大いに貢献した。

また同時期にロシアで活躍した明石元二郎は、その後、陸軍中野学校の模範となっただけでなく、

今でも日本屈指のスパイマスターとして国際的に評価が高い。




・戦前の陸軍中野学校では国体学を徹底して教育したことで、

明確な日本の国家像を持ったインテリジェンス・オフィサーが育てられた。

インテリジェンスは、国家や国益と不可分のものなのである。



・現代のスパイはケース・オフィサーとも称され、

公式な場やパーティでの情報交換が主な情報収集手段となる。

より機微な情報収集は赴任先で雇う情報提供者に任せることが多い。




・国家において、集約された情報は、インテリジェンス組織の情報分析官によって分析されることになる。

情報分析官が扱う事象は、外交、安全保障、諸外国の政治・経済情勢、エネルギー問題など多岐にわたり、

政策決定者はこれらの分野に関する短期的、長期的な見通しに関するインテリジェンスを求めることが多い。



・情報機関の長は日頃から定期的なブリーフィングによって、

政策サイドとの間に信頼関係を築いておく必要がある。

イスラエルのモサドは首相や閣僚からの信頼を基盤としている組織であるし、

日本の内閣情報官も毎週首相や官房長官に対してブリーフィングを実施している。

意外かもしれないが、日本の首相と情報官は他国に比べても比較的緊密な関係を維持しているのである。



・情報組織のトップに求められる資質は、

リーダーが誰であろうと円滑な関係を築き挙げられるようなコミュニケーション能力の高さである。



・情報外交やインテリジェンス外交という言葉もあるが、

これは外交にインテリジェンスを反映させ、困難な状況を打開する、という意味合いがある。

軍事力や経済力のようなハードパワーが外交力の源泉となるように、

質の高いインテリジェンスを持つことも大きな意味合いを持つことは言うまでもない。



・一般論として、表の外交交渉で行きにくい事案では、

インテリジェンスを通じた調整が行われることも珍しくない。

情報機関の任務として、いざというときのために外国機関とのバックチャンネル(裏ルート)を

構築しておくことも重要である。




・日本も国際的なインテリジェンス協力の枠組みに参加していくことを目標としなければならない。

さらに重要なのは日本のインテリジェンスの質を高め、各国が欲しがるような情報を常に持っておくことである。



・日本のインテリジェンスの問題点は情報が「共有されない、上がらない、漏れる」ということである。

そこで一番の問題としては、「インテリジェンス・サイクルが上手く機能していない」ということ。



・根本的な解決策としては、インテリジェンスの質そのものを高めていく必要性がある。

そのためには、情報収集の強化、オールソース・アナリシスによる分析手法の確立、

情報共有・集約の必要性、などが考えられる。



・インテリジェンスの改革は、国民の理解を得て行われなければならない。

そのためにはインテリジェンスに関する知識が涵養されていくことが望ましい。

そのリテラシーは政府首脳や官僚などインテリジェンスを利用する側にも広く共有されるべきである。

公務員試験などの科目に、インテリジェンスや情報保全に関する試験科目が加われば、この流れはさらに加速される。




※コメント

小谷賢氏の専門は、インテリジェンス研究、イギリス政治外交史である。

学者さんでありながら、ざっくばらんでわかり易い、おすすめである。

吉田松陰ではないが、情報を多く持っていても、行動しなければ意味はない。

それは、ビジネスでも外交でも、インテリジェンスでも当てはまる。

頭でっかちにならず、決断、実行を繰り返したい。