◆伊藤貫『中国の「核」が世界を制す』を読み解く(その2)


★要旨



・筆者は、

アメリカの首都ワシントンに二十年間住んでいる。



・米国政治の長期観察者としての

正直な感想を言うと、

「アメリカは、嫉妬深い。

アメリカ政府には十九世紀の初頭から、

競争相手をありとあらゆる口実を

つけて叩き潰そうとする外交パターンがある」

と感じる。



・この外交パターンの最大の被害者は、

「民族粛清」政策によって

大量虐殺されたアメリカ大陸の原住民であり、

国土の半分以上を略奪されてしまった

隣国のメキシコ人であり、

米海軍と海兵隊による頻繁な武力介入、

傀儡政権樹立という被害を被った

中南米諸国の国民であった。




・国際政治学者としての能力は、

キッシンジャーが上である。

ブレジンスキーは、

独創性に欠けた単なる秀才にすぎないが、

キッシンジャーには、

「歴史の流れに対する洞察力」がある。



・筆者は若い頃、

キッシンジャーの分厚い著作を

何度も繰り返し読んだ思い出がある。



・彼の思考プロセスの巧妙さと

外交分析の鋭さに魅せられたからである。

キッシンジャーの著作の中国外交と

イスラエル外交に関する記述には嘘が多いが、

そのことを十分承知のうえで彼の著作を読めば、

日本人が彼の外交分析のアプローチから

学べることは多い。



・ブレジンスキーの著作は

読む価値のないものだ、

というわけではない。

しかし彼の著作からは、

ケナン、モーゲンソー、ドゴール、

キッシンジャー、ウォルツ、

ハンティントン等の著作を読んだときに

読者が感じる、洞察力と思考力の

オリジナリティは見出せない。




・中国政府が

「アジア最強の覇権国となり、

十九世紀初頭の中華勢力圏を回復する」

という国家日標を追求していることは、

日本人にとって、日米同盟の重要性を高めている。


・一九五二年の独立回復以来、

ひたすら知的生産性の低い外交議論を

続けてきた日本の保守、

革新双方の政治家ですら、

「日米同盟を維持しなければならない」

という点では、意見が一致している。



・しかし、 「日米同盟が重要だ」

ということと、

「日米同盟に頼っていれば、それで十分だ」

ということは、

まったく別のことである。



・フランスのドゴール大統領は、

厳格な教育者の家庭で育った、

勉強好きの学者軍人であった。



・彼は大戦前にも、

フランスの陸軍戦略の欠陥を明晰に指摘する、

優れた軍事理論書を執筆している。

ドゴールの回想録を読むと、

彼が単なる職業軍人ではなく、

文学と歴史学にも深い素養を持つ

古典的な教養人であったことがわかる。


・ストイックな勉強家であったドゴール大統領は、

自分の学識と思考能力に

自信があったからこそ、

米軍のNATO総司令官やケネディ大統領と

一対一で議論して、

アメリカの「核の傘」政策の欺瞞と偽善を

真正面から論破することができたのである。



・欧米諸国の軍人や戦略家の外交史、

軍事史、安全保障政策理論に関する基礎知識と

思考パターンは、

どこの国でもほぼ同じものである。

筆者は、フランスやドイツやカナダの軍人、外交官、学者等と国際政治や

軍事政策に関する議論をするとき、

彼らと筆者の使用する基礎知識や思考パターンが異なるものだと感じたことはない。



・国際政治史や安全保障理論の勉強に加えて、

青年たちに過去二千五百年間の政治思想史と

過去300年間の憲法思想史を

学ばせる必要があるのは、

左翼と右翼の全体主義思想に対する

知的免疫性をつけさせるためである。



・過去の政治思想史と憲法思想史を

しっかり勉強すれば、

左翼と右翼の全体主義と

国家主義の不毛さが明確に理解できる。

国内政治における、

チェック・アンド・バランス(牽制と均衡)の

必要性を理解するようになる。



・過去二千五百年間の国際政治史を

しっかり勉強した人間が

バランス・オブ・パワー政策の必要性を

理解するようになるのと同様に、

政治思想史と憲法思想史を

しっかり勉強した人間は、

国内政治におけるバランス機能の必要性を

理解するようになる。



・国内政治と国際政治における

バランス機能の必要性を理解した人間は、

決して軍国主義者や武断主義者にはならない。



・ある程度の語学力を備えた青年たちは、

国際政治学・外交史・軍事学の

原書の読書会に参加させるとよい。



・モーゲンソー、カー、ケナン、

キッシンジャー、ウォルツ、オドム中将、

ミアシャイマー、ワルト等々の著作や論文を、

オリジナルで読ませるのである。



・一流の国際政治学者や戦略家の著作を

毎日10ページずつ読ませれば、

十カ月間で3000ページを読了できる。

そのくらいの分量の論文を原典で読めば、

日本の青年たちも、

「本当に優秀な学者や軍人の思考プロセスとは、

どのようなものか」

ということを少しは理解するようになる。



★コメント

あらためて、知性の凄みを知った。

読み込みたい。


 

 

 

 

 

 

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