◆林千勝『日米開戦・陸軍の勝算:秋丸機関の最終報告書』を読み解く
★要旨
・大東亜戦争の開戦の決断は、
実際、アメリカによって日本が最低限の国民生活さえ
立ち行かなくなるまで追い込まれに追い込まれた末での、
自存自衛のための、やむをえざる決断だったのだ。
・日本は、石油は9割、その他の戦略物資も
多くをアメリカからの輸入に頼る、
きわめて脆弱でみじめな経済構造だった。
・経済封鎖により追い込まれた末だったが、
対米屈従の道、アメリカへの隷属の道を
選ばなかったわが国の「開戦」の決断は、
国が民族が家族が、生き残るためのものであり、
それゆえ、実際、きわめて合理的な判断の下に行われた。
そうでなければ、国民は納得せず、
国家は運営できず、陛下もご裁可なさらなかっただろう。
・この合理的な判断の主役は、帝国陸軍だった。
生きるか死ぬかの決断のためには、
緻密な経済計算に基づく判断、
合理的な透徹が必要だった。
・帝国陸軍はこの認識に立って、
「生きるか死ぬか」のぎりぎりの決断を下すために、
経済抗戦力の測定とそれに基づく戦略の策定に、
その知見を最大限に発揮した。
・帝国陸軍は、科学的な研究に基づく、
合理的な戦争戦略を準備していた。
・カモフラージュのために使われたのが、
「陸軍省主計課別班」という名称だ。
・実際、「陸軍省戦争経済研究班」による報告書のほとんどは、
「陸軍省主計課別班」の名前で提出された。
それだけ、その存在と意図を隠すことに神経を使いながら、
研究活動がなされた。
・「陸軍省戦争経済研究班」は、「秋丸機関」と呼ばれた。
その理由は、岩畔大佐の意を受けて、
秋丸次朗中佐が班を率いたからだ。
・「陸軍省戦争経済研究班」は、
潤沢な予算を使って、精力的に情報収集を進めた。
各国の機密情報を含めて、軍事、政治、法律、経済、
社会、文化、思想、科学技術などに関する内外の図書、雑誌、資料を
約9000種を収集した。
・対英米戦争戦略の最終結論。
「陸軍省戦争経済研究班」では、シュミレーションの結論として、
わが国が、
「2年程度と想定される短い持久期間で最大軍事供給力、
すなわち最大抗戦力を発揮すべき」対象を、
経済抗戦力に構造的な弱点を有する英国、
と結論づけた。
・英国の命運は、
英国&米国の船舶建造と、ドイツ&日本による撃沈との
競争にかかっていると、分析した。
・すなわち、日本は、
インドやインド洋地域の英国の属領・植民地に対する戦線を
最大限に拡大して、彼らの物資を消耗させるべし、
ということ。
→そして、ますますこれらの地域への物資輸送のための
船舶への需要を増大させ、船舶需給を逼迫させること。
→このような状況をふまえた上で、
インド洋にてより多くの英国船を撃沈することにより、
英国の海上輸送へのダメージを最大限大きくできる。
→これらの地域への物資輸送ルートを遮断するとともに、
インドや豪州・ニュージーランドなどから
英本国への原材料・食料供給ルートを遮断すれば、
対英米戦を枢軸側にきわめて有利に導くことができる。
・戦いは、物量や兵力の差を超えて、
優れた戦略と集中力で勝つことができると
人類の歴史は示してきた。
日本は、追い込まれ仕掛けられた戦争に直面したが、
勝利への抜け道は確実にあった。
・チャーチルやルーズベルトが恐れたこの抜け道の存在を、
陸軍はしっかりと把握し、的確な戦略を創ったのだ。
この抜け道とは、
「腹案」の基本思想である「西進」であった。
★コメント
斬新なコンセプトに脱帽である。
関連情報の研究を進めたい。
★林千勝
『日米開戦・陸軍の勝算:秋丸機関の最終報告書』
↓