◆伊藤貫『自滅するアメリカ帝国。日本よ、独立せよ』を読み解く
★要旨
・筆者は、国際政治の中心地である
ワシントンに二十六年間住んでいる。
筆者の国際政治に関する視点は、
日本の官僚や政治家とは異なるものである。
・読者の中には、
「伊藤貫の議論は、
バランス・オブ・パワーの視点ばかり
強調していて冷酷だ。世界諸国は、
もっと仲良く協調できるはずだ」
と感じる方もおられよう。
・しかし三十年以上、
欧米諸国で暮らしてきた筆者は、
「国際関係における情緒(好意と敵意)、
ナショナリズム、国際法、国際組織、
イデオロギー、歴史解釈、価値観外交、等々は、
当てにならないことが多い。
外交政策と軍事政策においては、
抑制的なバランス・オブ・パワーの維持を
優先させるのが最も堅実なやり方だ」
と考えている。
・ワシントンに長期間住み、
「建て前」と「本音」を露骨に
使い分けるアメリカや
中国の覇権外交の現実を観察し、
過去五百年間の国際政治史をある程度勉強したら、そのような結論に達したのである。
・敗戦後の日本で、
真の独立を回復しようとして努力した首相はたった三人だけ。
鳩山一郎、石橋湛山、岸信介であった。
・国民の前では
「独立心の強い、毅然としたナショナリスト」
というお芝居を演じてみせた吉田茂、
中曾根康弘、小泉純一郎は、
実際には米政府の傀儡政治家にすぎな
かった。
・優秀なりアリスト派の国際政治学者である、
ケナン、ウォルツ、ハンティントン、
ミアシャイマー、ギルビン(プリンストン大)、
レイン(テキサスA&M大)などは、
冷戦後、一極覇権システムを作って
世界中の国を支配しようとしたアメリカのグランドストラテジーに対して、
強い疑問を表明してきた。
・長期的に見ると、
これら多数の
「国際公共財と称する同盟国支配システム」
を運営していくことにかかる軍事コスト、
外交コスト、経済コストは、
膨大なものになるからである。
・歴史上の人物、
例えば英国首相であったピット、パーマストン、
チャーチル、メッテルニヒ(墺)、
ビスマルク (独)、伊藤博文、ドゴール、
スターリン、ケナン、アイゼンハワー、
周恩来などは、
その政治イデオロギーにかかわりなく、
バランスオブパワー政策の重要性を理解ていた。
・彼らが外交政策において
自国の国益を維持・増強することに成功したのは、そのためである。
・その一方、ナポレオン、グラッドストン(英)、
ヴィルヘルム二世 (独)、ウィルソン、
ヒトラー、近衛文麿、東条英機、ケネディ、
カーター、ブッシュ(息子)等は、
バランスオブパワー維持の重要性を
理解していなかった。
・彼らの外交・軍事政策が自国の国益に
ダメージを与えたのは、そのためである。
バランスオブパワーの維持とは、
政治イデオロギーや歴史解釈の視点に
かかわりなく維持されるべき国策原則なのである。
・私事で恐縮であるが、
筆者自身の基本的な政治思想は
クラシカル・リベラリズム、
つまり古典的、18世紀的な自由主義である。
・筆者は、アダムスミス、モンテスキュー、
カント、マディソン、(アメリカ憲法哲学の構想者)、
福沢論吉、石橋湛山、矢内原忠雄、
林健太郎等が好きな、時代遅れの、古臭い自由主義者なのである。
・安全保障政策に関して筆者は
リアリスト・パラダイムの遵守と
日本の自主的な核抑止力の必要性を
提唱する自主防衛論者であるが、
筆者の政治思想は典型的な保守派ではない。
★コメント
あらためて、哲学と思想の凄みを感じた。
読み込みたい。