◆江崎道朗・編訳『米国共産党調書。外務省アメリカ局第一課作成』を読み解く
★要旨
・近年、対外インテリジェンス機関に対する関心が高まってきているが、
日本のインテリジェンス能力はどの程度だったのだろうか。
日本のインテリジェンス能力は大したことがなかったという話も聞くが、必ずしもそうではない。
・幸いなことに、
戦前の日本の対外インテリジェンス活動が極めて優れていたことを示す機密文書が存在している。
・それが昭和十四(一九三九)年に
日本外務省ニューヨーク総領事館によってまとめられた機密文書『米国共産党調書』で、
本書はその全文の現代語訳である。
・この『調書』には、米ルーズヴェルト政権下でソ連のコミンテルンと
米国共産党のスパイがどの程度大掛かりな「秘密」工作を繰り広げていたのか、
その全体像が詳細に記録されている。
・しかもその内容たるや、
スパイ映画顔負けのディープな世界が描かれているのだ。
・戦前の日本外務省が、
コミンテルンや米国共産党に関する詳しい調査報告書を作成していたと聞いて驚く人もいるかもしれないが、
当時の国際情勢を分析するためには、
米国共産党やソ連・コミンテルンの動向分析が必要だったのだ。
・実は欧米諸国の間で対外インテリジェンス機関が創設されたり、
拡充されたりする契機となったのは、
一九一四年の第一次世界大戦の勃発とその後のロシア革命だった。
・ソ連による「秘密」工作の実態は長らく秘密のベールに包まれていた。
だが、ソ連崩壊後の一九九二年、ロシアは、
ソ連・コミンテルンによる対外「秘密」工作に関する
機密文書(いわゆる「リッツキドニー文書」)を公開した。
・ロシア政府の情報公開を契機に、
米国の国家安全保障局(NSA)も一九九五年、
戦前から戦中にかけて在米のソ連のスパイとソ連本国との秘密通信を傍受し、
それを解読した「ヴェノナ文書」を公開した。
・ この「ヴェノナ文書」は世界の国際政治学者、
歴史学者たちに衝撃を与えた。
・実はこの「ヴェノナ文書」の公開と研究によって明らかになりつつあるソ連・国際共産主義の
「秘密」工作の実態を戦前から徹底的に調べ、
その脅威と懸命に戦った国がある。
当時、国際連盟の常任理事国だった日本だ。
・コミンテルンが創設された翌年の一九二〇年、
日本は警察行政全般を取り仕切る内務省警保局のなかに「外事課」を新設し、
国際共産主義の「秘密」工作の調査を開始した。
・内務省警保局と連携して外務省もソ連・コミンテルンの対外「秘密」工作を調査し、
素晴らしい報告書を次々と作成した。
・この『調書』はある意味、
「ヴェノナ文書」に匹敵するぐらい、
衝撃的な内容が記されているのだが、その存在はほとんど知られてこなかった。
果たしてそれでいいのだろうか。
★コメント
いままで知らなかった情報が満載である。
歴史の勉強は継続しなければならない。
研究のアップデートにより、より精緻な歴史を知ることができる。