◆塩田潮『昭和の怪物・岸信介の真実』を読み解く


※要旨


・岸信介は戦前、東京帝国大学法学部を卒業して農商務省に入り、
その後、満州国政府に派遣されて植民地経営に携わった。


・岸と長い間つきあいのあった政治家、福家俊一はこういっている。
「池田さんにしても佐藤さんにしても、また角さんにしても、この人たちは戦後の成り上がり者だった。
岸さんの場合は、戦中、戦後を通じてでき上がった巨大な土壌がある。
産業界には商工省時代からの人脈があった。
岸さんが面倒を見たり、世話をしてきた人がたくさんいた。
戦後になって官僚からポッと政治家に成り上がった人たちとは、実力も底力も違う。
岸さんは角さんのように直接、金には触らない。
二人を比べると、賢さの程度が違っていたね」


・昭和6年、商工省では吉野信次が次官に就いた。
岸は工務局工政課長を経て、昭和8年暮れに官房の文書課長に転じた。
省全体を取りまとめる一方、次官の補佐役も務める中枢のポストである。


・商工省には議会提出の法案を事前にチェックする法令審査委員会という機関があった。
委員長は文書課長の兼務である。
岸は瞬時に問題の本質を見抜き、その場で的確な指示を与えた。
商工省では誰もが切れ味に舌を巻いた。
そっ歯を剥き出しにして豪快に笑い飛ばすのが岸の癖である。
それでいて、仕事は完璧だった。


・「あの人にはかなわない。議論すると、いつも白を黒と言いくるめられる」
岸に問題を持ち込んで話をしていると、いつのまにか丸め込まれてしまうと省内で評判が立った。
誰が議論を吹っかけても理路整然と自説を展開して論破する。

 

・「向こうに行ったら実情を逐一、教えてくれないか」
岸は別れ際に言い添えて、商工省の部下や後輩を何人も満州に送り込んだ。
出向組が出張で東京に戻ると、必ず会食の席を設けた。
狙いは慰労や激励だけではない。
満州の情勢を聞き出そうとした。


・岸は昭和11年、満州国政府に出向した。
彼は東京にいたときから満州の産業開発をめぐる情勢を正確に把握していた。
先に渡満した椎名らは、満鉄の調査部と協力して5ヵ年計画の基礎データとなる資源調査を大々的に進めた。
調査結果は逐一、岸に報告された。
先遣隊が調べ上げた基礎データを頭に入れ、陸軍の一任も取り付けて、
万全の態勢を整えてから、岸は満州に乗り込んできたのである。


・岸は満州では金には不自由しなかった。
高級料亭に繰り出すだけでなく、部下にも気前よく小遣いを配った。
岸くらいの高級官僚だと、公的に認められた工作費や交際費もあり、相当の金が自由になった。


・岸は39歳から42歳まで、まる三年間を満州で過ごした。
若くして植民地経営の根幹に関わった。
自分でシナリオを書き、実行に移していった。
もともと一官僚に留まらない才能と手腕を身につけていたが、満州でさらに磨きがかかった。


・岸は42歳である。
だが3年間、満州で植民地経営の指揮を執り、国家運営の実地訓練を積んだ。
実際に権力を握り、自ら行使する。
豊富な機密費を自由に使って人を動かす。
軍人との付き合い方を会得し、軍部に人脈を得る。
そうやって白紙に絵筆を使うように自在に腕を振るい、満州国という「作品」を描き上げた。


・戦後、民主党と自由党の保守合同では岸は、三木武吉の補佐役に徹した。
三木は大業の仕掛けは得意だが、デスクワークはこなせない。
岸は実務処理の面では官僚時代から卓越した能力がある。
三木にできない社会党対策や財界工作なども引き受けた。
正式な協議が始まり、岸の出番がきた。
三木は新党の組織、綱領、政策、資金調達システム、選挙態勢などは岸任せにした。


・岸の気分転換は人一倍、早い。
敗北感を長く引きずるタイプではない。


・岸をよく知る人たちの人物評を聞くと、
「決断が早く行動的、世話好きで面倒見がよく、生き方は男性的」
という声が圧倒的である。
政治路線も一見したところ、きわめて明快で直線的に映る。


・彼は目標達成を徹底して追求する強固な意志を持ちながらも、
ゴールに至るコースは決して直線型ではなく、二重三重の仕掛けがいつも用意していた。
情報のチャンネルは無数にあり、発想もマルチタイプである。
臨機応変、変幻自在、融通無碍がむしろ本質と指摘する人もいた。


※コメント
岸さんほど波瀾万丈の人生もないだろう。
私生活も経歴も面白く、さすが明治生まれの男という感じがする。
彼らの紆余曲折に比べれば、現代人の我々もまだまだやれる。


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