◆大塚将司『スクープ、記者と企業の攻防戦』を読み解く
※要旨
・ドラマ「刑事コロンボ」が好きだ。
私は、1975年に新聞記者になった。
それから、30年近く経った。
今、私は「新聞記者は刑事コロンボのようでなければならない」
と思っている。
・「刑事コロンボ」で起きる殺人事件は物的証拠がないことが多い。
コロンボはそれを状況証拠の積み重ねで、
目星をつけた犯人を追い詰めていく。
物的証拠があれば、犯人を自白に追い込むのは簡単である。
状況証拠だけで、自白に追い込むのは至難の業である。
それをやってしまうのがコロンボである。
・「新聞記者はこれだ。この手法だ」
ドラマを何本かみているうちに、
私ははたと思ったのである。
・新聞記者は人に会って話を聞いて記事を書く。
もちろん、秘密の文書を入手して、
それを基に記事を書くこともあるにはある。
いってみれば物的証拠である。
しかし、それはそう多くはなく、
やはり話を聞いて記事を書くのが基本である。
・取材相手が誰にでも喋る話を聞いてもスクープにはならない。
秘密の話を聞かなければ意味がない。
しかし、秘密の話を聞けることはめったにない。
あるとしても、大抵、
「OKを出すまで記事にするな」
といった条件が付けられる。
・こうした条件を付けられずにスクープをものにするには、
コロンボのように状況証拠を積み重ねて、
取材相手に秘密を白状させる他はない。
・スクープ取材を成功させるための条件とは何か。
コロンボがドラマの背後で積み重ねたはずの
自己研鑽をすることであり、
それが成功への第一歩である。
・わたしは入社して1年して、
精密機器業界を担当することになった。
わたしは企業の業績を調べるため、
第一勧銀の丸の内支店にアポなしで訪ねた。
それがきっかけで、
「無頼派」支店長の深津健一氏から「課外授業」が始まった。
・深津支店長は、
支店長室でわたしと話をしながら、こう言った。
「おまえは新米だな。よし教育してやろう。
時間はあるんだな。そうか。隣に行こう」
こういいながら、若手行員数名を引き連れ、
となりのレストランバーに行った。
・深津支店長は、
「君な、企業業績や財務を取材するなら、
まず財務諸表が読めなきゃな。
それから財務分析もできなきゃ駄目だぞ」
と言うなり、やおら講義を始めたのだ。
・「在庫が増えたら要注意だ」とか
「支払手形と受取手形がどうなっているか。時系列でみろ」
「割引手形が増えているのか、増えていないか」など、
バランスシートの読み方を延々と説明していく。
時が経つにつれ酔いが回ったのか、
支店長のベランメー調に拍車がかかった。
・「企業取材の勉強は、銀行の融資担当者の仕事と同じだ」
・翌日の土曜日、深津さんは、
黒田精工、東京精密両社の決算数字を使った資料を基に
説明してくれたので、
私のような新米記者にもよくわかる説明だった。
・30分ほどで、説明が終わると、
深津支店長は私に向かって、
「君、企業の取材するなら、こういう分析を自分でやれなきゃ駄目だぞ。
勉強しなきゃ。
銀行の融資担当者と同じなんだ」
私が頷くと、
「よし、じゃ、隣に行こう」
と言って、立ち上がった。
・昨日と同じメンバーで、水割りを飲みながら、
深津支店長の説教を2時間ほど聞かされた。
彼は別れ際に、
「これからも来い。
わからないことがあればいくらでも教えてやる。
来るんなら土曜日だ。
それも午後1時過ぎに来い。いいな」
・当時は土曜日も取材ができたが、
相手の企業も半ドンで、
午後は記者クラブでぶらぶらしていることが多かったから、
「土曜日の午後に来い」
という深津支店長の言葉はありがたかった。
・私にとって深津健一支店長は
経済記者としての基本を教えてくれた、
一生忘れられない存在である。
30年近く経った今でも、その風貌は脳裡に甦る。
ポマードできれいに固めた頭、浅黒いが端正な顔立ち、
部下を叱咤するバリトンの声。
丸の内支店の「隣」の薄暗いレストランバーの中で
水割りを飲みながら、説教する姿が今も思い浮かぶ。
・コロンボ警部のような経済記者になるには、
企業会計の知識は必要条件だ。
ただこの知識はイロハのイにすぎないのである。
他には、
財政や税制、金融政策、国際金融などの知識も当然必要だ。
そして大事なのが過去の経済事件などについての知識である。
・スクープをものにするには、
まず、基礎知識をしっかり身につけ、
できる限りの情報を集める。
次に、特定の情報にこだわらず、
大局観を常にもって取材しないといけない。
そして、自分なりのニュースの絵を描き、
その絵を念頭において、粘り強く取材する。
そうすればスクープは手の届くところに来る。
※コメント
記者たちの舞台裏が見えておもしろい。
どういった取材方法をやっているか。
別の業界にもそのノウハウは使える。
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