◆國重惇史『住友銀行・秘史』を読み解く
※要旨
・わたしが大学を卒業して住友銀行に入行したのは、1968年。
最初の配属は丸の内支店。
2年半支店時代には営業などをやったが、
目立った業績があったわけではない。
・その後、本社の東京業務第二部、2年間の米国大学院留学、
業務企画部などを経て、
企画部に配属されたのが1975年のことだった。
以降、10年をこの企画部で過ごすことになる。
・私は企画部で大蔵省担当、いわゆる「MOF担(モフ・タン)」を長く務めた。
自分で言うのもなんだが、
MOF担として、
「國重の前に國重なし、國重の後に國重なし」
といわれ、名をはせた。
・MOF担というのは、端的に言えば、
情報を取ってくる仕事である。
大蔵省のキャリア官僚、ノンキャリ、
さらには、政治家、日本銀行の役人などに深く食い込み、
銀行にとっての重要情報を逃がさずに入手する。
・企画部では、時にトップ幹部から降りてくる特命的な仕事も任される。
要するに、最も経営に近い中枢であり、
若いころからここで仕事ができたことは自分の財産になった。
そのスキルは、イトマン事件の際に非常に役立った。
・住友銀行が危機に陥っている。
闇の勢力に食い物にされようとしている。
私にはそこへの危機感が強烈にあった。
・伊藤寿永光、許永中。
普段であれば銀行と付き合いもなく、
裏の世界に生息している人物がはびこり、好き放題に暴れまわっていた。
2人のことは最初知るよしもなかった。
ただ、何かが起きている、このバブルを謳歌している日常の裏で、
恐ろしい出来事が起きているという直感はあった。
行動をしなければならない。
何かしなければならない。
・この手帳をつけ始めたのも、いわばその決意の表れだった。
私は日々自分が何をし、
人々が自分に何を言ったかを記録し始めることにした。
そして、できるだけ情報を集めて回り、
それも克明に記録して残すことにした。
・これは住友銀行史、いや、日本の金融史、
経済史に残る大きな事件になると思ったからだった。
・イトマンは、もともと伊藤萬株式会社といわれ、
住友銀行がメーンバンクを務めていた中堅商社である。
住友銀行から送り込まれた河村社長は経営再建を成功させると、
磯田会長の忠実な部下として、
住友銀行の不良債権案件をイトマンでいくつも引き受けるなど
汚れ仕事を請け負い、住銀の「別働隊」として
イトマンの存在感を高めていった。
・西川常務は、のちに三井住友銀行の頭取となる西川善文氏だ。
わたしは、西川常務とは率直に話をできる関係を築いていた。
彼も住銀の現状には非常に危機意識を抱いていた。
このままいくと大変なことになる。
これは私と西川常務の共通した思いだった。
このあたりから、私と西川常務は密に連絡を取り合うようになる。
・私は、イトマンと住友銀行の大問題について、
イトマン社員を装って、告発文を大蔵省とマスコミに送った。
いわゆる「Letter(レター)」だ。
・「レター」については後日談がある。
イトマン問題がすべて終わった後のことだ。
大蔵省の銀行局長だった土田氏は、東証の理事長に、
証券局長だった長野氏は過剰接待問題で辞職し、弁護士となっていた。
彼らと、人形町の鳥料理屋「玉ひで」であったときのことである。
・土田氏がイトマン事件のことを振り返って言った。
「あの文書というのは、本当に理路整然として、
誰が書いたのかねえ。
失礼ながらイトマンにあんな文章を書ける人物がいるとは思えない」
もちろん、私はそのとき、
「そうですか、いったい誰でしょうね」
などと調子を合わせていたが。
・私は「レター」については細心の注意を払っていた。
今に至るまで誰一人として自分が書いていたと明かしたこともなければ、
紙や封筒にも自分の指紋を残さないよう、
扱うときには必ず手袋をし、最後に念を入れて、
ふき取ることも忘れなかった。
・絶対に、ばれてはいけないと決意していた。
攻めるなら、大きな戦略と細心の注意がなければ。
・こういう細部の詰めにもこだわるところが、
銀行員としては相当型破りの私が順調に
出世していった理由かもしれない。
・わたしは基本的に「攻め」のタイプだが、
メガバンクとは「守り」の組織である。
そして徹底した減点主義。
1回でもバツがつくともうおしまいだ。
・そのなかで出世コースを昇っていけたのは、
調子よく見えて、
意外に細かいところまで気を付けていた、
それが理由かもしれない。
・中野常務といえば、
私が業務渉外部にいたときの担当常務だったから、
ずいぶんいろいろな取引先に同行した。
細かい人で、相手とのやり取りを逐一すべて文字に起こさせる。
一言一句、逐語起こしだ。
・もちろん録音などはしていないから、
記憶頼りなわけだが、
そこらへんは私は生来の要領のよさでお手の物、
詳細にメモに起こし、上げた。
ただし、他の部下にはこの「逐語起こし」は大変不評だった。
・記者に質問項目を教える、というのは、
ここを聞かれると銀行側は痛いからぜひ突くといい、
というアドバイスだった。
情報を仕入れる以上、こちらも何らかのメリットを提供しなければならない。
そこはギブアンドテイクだ。
情報を扱うときの基本だ。
※コメント
銀行の舞台裏は、ドラマチックだ。
どんな会社にも、いろいろな内部事情がある。
それをどうやって処理するかで、
その会社の器量が決まる。
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