◆クレピネヴィッチ『帝国の参謀:アンドリュー・マーシャル』を読み解く

 


※要旨


・本書は、非凡でありながらほとんど知られていない
90代の人物の生涯を振り返るものだ。
その名は、アンドリュー・マーシャル、
ニクソン政権のジェームズ・シュレンジャー以後
すべての国防長官に仕えている。


・1960年代後半、ランド研究所に入って、
20年目を迎えようとしていた頃、
マーシャルはシステム分析の限界に挑戦し始めるとともに、
ソ連との対立が続いていたアメリカの戦略策定能力を
改善する方法を模索していた。


・その結果生まれたのが、
「ネットアセスメント(総合戦略評価)」
と知られる分析手法である。
数年のうちに、国防総省にネットアセスメント室(ONA)
が設置され、マーシャルは室長に就任した。


・ONA、すなわちマーシャルは、
戦略的に重要な事柄に対する革新的思考を重んじ、
国防総省幹部が注目すべき新たな課題や機会を、
発足以来41年間一貫して明らかにしてきた。


・本書を執筆したそもそもの目的は、
アンドリュー・マーシャルの伝記を作ることではなく、
彼の知の歴史をたどることだった。


・マーシャルがアメリカ有数の陰の戦略家になるまでの
知の軌跡は1940年代後半、
シカゴ大学大学院で経済学を学んでいた頃に始まった。


・ランド研究所での23年間(1949~72年)に
マーシャルが達成した最高の業績は、言うまでもなく、
大陸間核戦力における米ソ対立を長期的競争枠組みの
中で分析したことだった。


・マーシャルにとって、ネットアセスメントとは、
アメリカの兵器システム、兵力、作戦ドクトリンと実践、
訓練、兵站、設計・調達アプローチ、資源配分、戦略、
戦力の有効性を、既存の敵や将来の敵と
注意深く比較する手段だった。


・近年、戦略研究の世界では、マーシャルを
「決して知られていない最も影響力のある人物」
とみなす声がある。


・国防関係者の中には、
マーシャルの豊富な経験、知恵、スポットライトを避ける姿勢、
長年指導してきた優れた研究者や高官の存在を称え、
「ヨーダ」と呼ぶ者もいるほどだ。


・ちなみに愛弟子たちは、
「ジェダイの騎士」と呼ばれている。
騎士たち自身は、もう少し謙虚に、
「セイント・アンドリューズ・スクール」の
誇り高き卒業生と名乗る。


・マーシャルの知的貢献が十分理解されていないのは、
彼が自己宣伝を極端に嫌うからだ。
「手柄を気にしなければ、人間はいくらでも優れたことを成し遂げられる」
と彼はよく言う。


・あまり知られていないもう一つの理由は、
人は、特に彼が指導してきた人々は、自身もそうしてきたように、
発見という知的旅路をそれぞれが
独自に歩むべきだという考えによる。


・マーシャル自身の功績は、独学と、
同僚との日常的なアイデアのやり取りに負うところが多い。
彼は他者に自分の考えを押し付けるのではなく、
彼らが自分なりの探求を深めるために
必要な指導と励ましを与えようとした。


・マーシャルは、代々の大統領や国防長官に対しても、
取るべき行動を具体的に提案することはなかった。
正確な診断こそが、
適切な戦略的判断を下すためのカギだと認識しているからだ。


・「私は、見当違いの問いにもっともらしい答えを出すのではなく、
正しい問いに対してまずまずの答えを出したい」
とも述べている。

 

・アンドリュー少年は、父親同様好奇心旺盛で、
読書が大好きだった。
一家のささやかな蔵書には文学全集や百科事典が混じっていた。
彼はそれらをむさぼるように読み、
さらに知的刺激を求めてデトロイト公共図書館を訪れた。


・彼は、かなり早い時期からこの図書館の常連になった。
わずかな小遣いを貯めては、チェスや数学、歴史など
いろんなジャンルの本を買い集めている。


・マーシャルは、数学、軍事史、人間の進化、文学など、
早くから幅広い分野に関心を持ち、
知的好奇心が非常に旺盛で、
抽象的な理論やモデルよりも経験的データを好んでいた。
これらの特質は、
どれもランドに来る前から備わっていたものだ。


・著者を含め、長年マーシャルと親しく接してきた者は、
その鋭い知性と同時に、独特の個性にも感銘を受けている。
戦略や未来の安全保障環境に関連した人や場所、出来事、
本質的な論点に対する驚異的な記憶力に恵まれたマーシャルの回想は、
文書などの情報源と矛盾することはめったになかった。

 

・記憶の正確さは、まさに驚くべきものだ。
その並外れた能力によって、マーシャルは現代最高の
防衛専門家の多くの目が気づかなかった
国家安全保障の問題を関連づけることができた。


・彼のもう一つの個性は、国防総省幹部に対して、
どのような決断を下すべきかを伝えようとしなかった点だ。
水面下で影響力を持つ助言者として、
いわば「黒幕」として働きたいという意思は、
謙虚で控えめな人柄の表れだ。


・ランド研究所でも国防総省でも、
地味で控えめな個性を失うことなく、
マーシャルは権力を拡張しようとはしなかった。
ONAは一度も大きな組織になったことはない。
秘書や事務職員を含めても、
スタッフの数は20人を超えたことはなく、
通常かなり下回っていた。


・ONAについて繰り返される問いがある。
「マーシャルは何かを成し遂げたのか」

最も明白な成果は、1970年代と80年代に、
ソ連の軍事計画が経済全般に及ぼしていた負担を
推計したことだろう。
これはシュレンジャーがマーシャルに最初に
検討を求めたテーマの一つだった。


・シュレンジャーは、ソ連のGNPのわずか6%が
軍事費として使われているというCIAの推計を再検討させるよう
マーシャルに命じた。
CIAの推計が正しくて、
ソ連の指導者が「奇跡を起こす人」であるなら、
米ソの長期的対立の最終的な勝利者はソ連になる。
シュレンジャーとマーシャルが正しいのなら、
アメリカには有利な状況であり、
このことは戦略の展開に重要な意味を持っていた。


・マーシャルは、スタッフに対して、
アセスメントの作成法を懇切丁寧に指導しようとしなかった。
ONAの新しいメンバーにネットアセスメントについて
説明することもなく、調査とデータの必要性を強調し、
概要をまとめるよう指示するだけだった。


・彼のONAのスタッフへの対応には、
謙虚さ以上の深い教育的な理由があった。
長年の間、自身がたえず学び続け自問自答を繰り返してきたように、
ネットアセスメントとは何なのか、
スタッフにも自力で答えを出してもらいたいと
考えていたのだ。


・マーシャルのネットアセスメントの根幹には、
徹底的な調査に基づいて問題の本質を究明する姿勢がある。
さらにもう一つの傾向は、
適切な質問を行うことを常に重視していたことだ。

 


※コメント
アメリカの軍事戦略はどれほど深く長期的に
練られているか、洞察されているかが、
よくわかる。
日本における戦略立案の参考にしたい。


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