◆鎌田浩毅『富士山噴火、ハザードマップで読み解くXデー』を読む
鎌田氏は、火山学者。
自身は、面白くて役に立つかっこいい教授を目指しているとのこと。
※要旨
・富士山は日本最大の火山である。
日本一の高さを誇る円錐形の美しい富士山は、
年間2000万人以上の人々が訪れる日本有数の観光地でもある。
しかし、富士山がかつて大きな災害を引き起こしてきた「活火山」であることは、
意外に知られていない。
・火山灰などの噴火災害から身を守るためには、どこが危険なのかを示した地図が必要である。
このような地図が、ハザードマップである。
噴火が発生したらどの地域にいかなる危険が及ぶのかを示したもので、
火山防災で最も重要な役割を占めているといってもよい。
・ガラスからなる火山灰は、そのものに化学的毒性はないが、人体には有害である。
火山灰は顕微鏡で観察すると、角が刃物のように鋭くとがったものがある。
これによって気管や肺が傷つけられ、さまざまな病気を引き起こすのだ。
火山灰が舞っているときは戸外に長くとどまらず、できるだけ室内にいること。
マスクがないときの応急措置としては、水で濡らしたタオルやハンカチを口に当てて、
火山灰の吸引を防ぐ方法がある。
・農作物への被害
植物の葉の上に降り積もった火山灰も、非常に厄介である。
野山の草木は枯れ、農作物は壊滅状態にもなる。
火山灰が関東一円に降り積もったときには、野菜などの生鮮食料品の値段が高騰するに違いない。
・通信、交通の被害。
火山灰の被害は、ハイテクノロジー社会にも打撃を与える。
ただちに生じるのは、ライフラインに直結する水源地や浄水施設の汚染の問題だ。
火山灰は、細かな粒子がたくさん含んでおり、これらが電子機器やコンピュータの吸気口から吸い込まれると、中に付着する。
コンピュータが機能しないというのは、大変なことである。
通信、運輸、金融をはじめとして、現在の多くの産業に打撃を与える。
これらのホストコンピュータの大部分は、首都圏にあるので、被害が日本中から世界へ広がりかねない。
・富士山から降ってくる火山灰への対策は、直下型地震と共に首都圏の重要な危機管理の一つなのである。
・富士山噴火による被害では、溶岩流がある。
溶岩とは、マグマが液体のままで地表に流れ出たり、地表の近くまで貫入したものをいう。
実際の溶岩流に対する防災では、
「どこから流れるか」「どの範囲まで流れるか」「どのくらい時間がかかるか」「厚さはどれくらいか」を
予測しなければならない。
・富士山では溶岩が民家や畑へ流れ込むのを防ぐために、溝を掘って流路を変える方策が考えられる。
山梨県では自衛隊が山麓に溝を掘り、溶岩の流れる向きを変えるという防災訓練が行われる。
・火山が爆発的な噴火を起こしたとき、「火砕流」がしばしば発生する。
火砕流とは、マグマの破片やガス、石片などさまざまな物質が一団となって流れる現象だ。
ドロドロと流れる溶岩流とは違い、モクモクと、煙のような見かけをしている。
すなわち火砕流は、高温で高速のきわめて危険な流れであり、通過した地域をすべて焼失し壊滅させてしまうのだ。
・富士山でも大噴火はまれにしか発生せず、小噴火は比較的頻繁に起きてきたといってもよい。
ちなみに大噴火の代表格は、864年の貞観噴火と1707年の宝永噴火である。
・富士山は300年間沈黙を保ったままである。
噴火をまったく起こさずに今後も100年くらい、せっせとマグマを地下にため込むこともある。
人間は自然のメカニズムのごく一部しか理解していないので、まだ休止期が延びることもありうる。
こうなると、次に噴火したときにはさらに大量のマグマを噴出することになるので、防災上はあまり歓迎したくない。
一般に、マグマがときどき、ほどよく出ている分にはたいした噴火にならない。
だが、ため込んでいっぺんに出すと、非常に厄介なのである。
ちょうど、普段あまり怒らない人がストレスをため込んで怒らせたらとても恐い、というもの。
・富士山がいつ、どこから噴火するのか、という基本的な問いに答えるためには、過去の噴火履歴の情報は大変に重要である。
将来、マグマが上昇する位置の予測は、地震や傾斜や重力の変化を対象とした地球物理学的な観測情報が役に立つ。
・おそるべき巨大地震との連動。
気がかりなのは、いま話題となっている東海地震などの巨大地震に触発されて、それに富士山の噴火が連動するかもしれないという事態だ。
地震と噴火というダブルショックが首都圏から東海地域を襲い、日本の政治経済を揺るがすような一大事となるおそれだ。
・江戸時代に起きた宝永噴火では、その49日前に宝永地震(東海南海)という巨大地震が発生した。
地震被害の復旧で忙殺されている最中に、富士山噴火に追い討ちをかけられたのだ。
・富士山の噴火と地震の連動は、1707年と1435年に起きている。
1707年は12月16日に富士山が大爆発を起こした。
その49日前に、関東から九州にかけて大きな被害をもたらした宝永地震が起きた。
宝永地震は南海トラフで発生したマグニチュード8・6というまれにみる巨大地震だった。
1707年の宝永噴火は、その少し前に起きた宝永地震と元禄地震が引き金となって起きたという見方がある。
これは、地震と噴火の連動型とみて差し支えない。
次の1435年の富士山噴火であるが、この2年前の1433年に相模トラフ沿いに地震が発生した可能性があり、関東地方で被害を出している。
未来は正確に予測できないが、富士山の噴火と地震の連動は国家の危機管理上、十分に考慮しておくべき問題であることは間違いない。
・日本には活火山が108個ある。
富士山について学んだ知識は、異なる火山にも応用が可能になる。
・ここでは災害について述べたが、少し火山の恵みについても触れておきたい。
富士山のもたらす恵みは測りしれず、日本は長年すばらしい恩恵にあずかってきた。
温泉は言うに及ばず、溶岩の流れがつくった美しい風景もそうだ。
万葉集以来、日本人を魅了してきた富士山の勇姿は、成層火山の典型でもある。
富士五湖や白糸の滝をはじめ、水と火山がつくる造形美がある。
溶岩から湧き出てくる水は清流をつくり、そこに育つウナギは地域の名産となっている。
富士山麓でつくられる野菜やミネラルウォーターも、広大な火山麓扇状地のおかげである。
火山の噴出物がミネラルと養分を含むからである。
・これらの恵みは、噴火と噴火のあいだにわれわれが享受できる火山からの贈り物である。
富士山が最後に噴火してから300年、日本人は富士山から恵みを与え続けられてきたと言ってもよい。
・噴火は短く、恵みの時期は長い。
このような知識を持つことは、火山と共に生きる人間の知恵でもある。
私たちは、来るべき噴火の被害を最小限にするため、備えを充実しなければならない。
※コメント
備えあれば憂いなし。
悲観的に準備し、楽観的に対処する。
これが危機管理の基本である。
常に最悪を想定しておけば、実際に起きたとき少しでも冷静に対処できるだろう。
自らだけでなく、家族や仲間、国を守らなければならない我々は、高度な防災知識と危機管理能力がいまこそ求められている。
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