◆ジョビー・ウォリック『三重スパイ。CIAを震撼させたアルカイダのモグラ』を読み解く



※要旨


・2009年12月30日、アフガニスタン東部のホースト市に近い、
CIAのチャップマン前哨基地内で自爆テロが起き、CIA局員7名を含む9人が死亡し、
6名が重傷を負う大惨事となった。

死亡したCIA局員は、CIAきってのアルカイダ通と言われたマシューズ基地司令官をはじめとする、
対テロ戦争の精鋭たちであった。


・本書はおよそ1年にわたっていろいろな人から話を聞くことで完成した。
そのなかには仕事の性質上、公に知られることのない影の世界で生きている人が多い。
一次証言の多くは情報機関の現役メンバーおよび複数の特殊部隊のメンバーから得たものである。


・バラク・オバマは大統領就任し、CIAの次期長官として、
中央政界のベテラン政治家レオン・パネッタを選んでいた。
パネッタには諜報関係の目立った職歴はないが、優れた組織管理者であることは証明済みで、
クリントン政権では大統領首席補佐官をつとめた。
パネッタが最初に行った決定は、人気の高い副長官のキャップスを留任させて対テロ戦の陣容を維持することだ。


・パネッタ長官にとっては試練の春となった。
70歳の元カルフォルニア州選出連邦下院議員は、
オバマ大統領によってCIA長官に任命される前の、半ば引退した余裕のある日々を惜しむこともあった。
政権発足前から、オバマの首席補佐官を務める古い友人ラーム・エマニュエルから就任の打診を受けていた。


・オバマは、エマニュエルに問いただした。
「本当にこれがいい人選なのかね」

エマニュエルには確信があった。
パネッタはワシントンの政界を熟知し、並外れた政治的手腕を持つ有能な政治家である。
ごりごり意思を押し通すえぐいところがある反面、にこやかな田舎の市長のような人懐こい魅力があって、
誰でも好感を抱かずにはいられない。
政権の利益を守りつつ、CIAがホワイトハウスのうるさい経理屋や、
国防総省や議会との戦いに勝っていく方策を見つけられる人物だ。


・ジェニファー・マシューズ女史はワシントンとロンドンの支局でアルカイダ調査部門に勤務した後、
2009年初頭に初めて交戦地帯に赴任した。
アフガニスタンに来てわずか3ヶ月目に、二重スパイのフマムと初めて会う任務を上層部から命じられた。


・マシューズは20年にわたって対テロ任務に従事するあいだ、カブールやバクダッドなど、
CIAの中核的任務が遂行される前線基地での勤務を経験してこなかった。
上を目指すなら、戦地に行かなければならなかった。
そこでアフガン行きを希望した。


・今までのところ、アメリカ人の局員で、「狼」と呼ばれるその情報提供者を実際に見たものは一人もいなかった。
男の本名を知る者は10人たらずだという。
この知略に満ちた二重スパイはアルカイダの内懐に潜入し、CIA本部の上層部を狂喜させる暗号メッセージを送ってきたのだ。
そして、「狼」ことフラム・ハリル・アブ・ムライ・アルバラウィはこのコンクリートの要塞、
すなわち「ホースト」と呼びならわされるCIAの秘密基地に迎え入れられ、自爆テロを実行した。


・事件後、2つの調査チームが電話盗聴記録、メモ、メール、自爆テロを生き延びたCIA局員、
およびその同僚や上司の証言など多数の資料をホースト基地、カブール支局、イスラマバード支局、
アンマン支局、ラングレーの本部から集めて吟味することになった。


・多くの元CIA幹部局員は、責任はマシューズにあり、もっと言えば戦争地帯での経験に乏しいマシューズを
前線基地の指揮官に据えたCIA上層部が悪いのだとした。


・CIA内部の調査は多くの誤りを指摘した。
そしてマシューズと彼女が率いた基地指導部は、情報提供者の協力を何がなんでも得ようとするあまり、
直接接触する際の標準的な安全策をとるのを怠ったという結論を出した。


・9・11テロのあと、超党派の調査委員会が設置され、なぜ多くの政府機関が、
旅客機をミサイルがわりにして国防総省と世界貿易センタービルを、
攻撃するアルカイダの計画を事前に察知できなかったのかを調べ、一つの報告書にまとめようとした。
最大の原因は、想像を絶することを想像する能力が各機関に欠けていたことにあるとした。

「最も足りなかったのは想像力だった」
と、2004年に発表された911調査委員会報告書は述べている。


※コメント
危機管理能力は、事前の準備、経験、知識など総合力が問われる。
こういった能力はリーダーに必須である。