帰りますと言った彼が

席を立った。

 

 

 

寂しかったけれど

終了時間が来たので

仕方がない。

 

 

 

 

来た時と同じ格好をした

彼が

部屋の出口のほうに

向かっていった。

 

 

 

何と言っていいのか

分からなかった私は

 

 

 

ただ何も言わずに

彼の姿を目で追った。

 

 

 

出口のところで

彼がクルリと

体を私のほうへ向け

 

 

 

私に向かって

両手を広げた。

 

 

 

 

その日のお別れの

ハグだった。

 

 

 

私は本当は

まだまだ

彼に触れていたい気持ちだった。

 

 

 

 

私は彼のほうに

向かっていって

両手を広げてくれている彼に

抱きついた。

 

 

 

お互いに

何も言わずに

 

 

 

ただ、静かに

抱きしめ合った。

 

 

 

この時に彼が

何を考えていたのか

分からないが

 

 

 

私は

もしかしたら二度と会わないかもしれない

彼に対して

なぜかふと、

こんな気持ちが湧いてきた。

 

 

 

「やっと、見つかった」

「私は、もう、誰も探さなくていいんだ」

 

 

 

もう会わないかもしれない相手なのに

突然

こんな気持ちになったことに

自分でもびっくりした。

 

 

 

 

このような気持ちになったのは

なぜかというと

 

 

 

私は

自分でも自覚しているけれど

もともと恋愛に依存的な傾向があり

 

 

 

いつも恋愛していないと

どこか幸せではなくて

 

 

仕事をしている時も

友人と会っている時も

常に

頭の片隅には

恋愛があって

 

 

 

自分を満足させて幸せにしてくれる男性を

常に探しているようなところがあった

 

 

 

セラピJに会うまでも

恋愛経験はあるけれど

 

 

セラピJに会った時ほど

 

 

「やっと、見つかった」

 

 

 

という気持ちになったことは

なかった。

 

 

 

実はそれほど

見た目も

雰囲気も

性的な行為も

何もかもが

私にとって

完璧に思えたのだ。

 

 

 

それは

かっこいいとか

見た目がタイプということだけでは

なかったと思っている。

 

 

 

かっこいい人や

タイプな人に会ったとしても

ここまで

心惹かれる人は

もう2度と現れないのではないか

 

 

 

そう思うぐらい

完全に彼のすごさに

心を持っていかれていた。

 

 

 

出逢ってすぐに

性行為をしているという

シチュエーションもきっと

そう思わせやすい

状況であったのかもしれない。

 

 

 

 

そんなことを思いながら

しばらく抱きしめ合って

 

 

 

相変わらず彼は何も言わずに

 

 

 

そのまま

私たちの

身体が離れて

 

 

 

彼が

最後に

とても軽いキスをした。

 

 

 

 

 

彼が部屋の扉を出ていくまで

彼の顔を再度

まっすぐに見た私は

 

 

 

 

やはり

こんなにもかっこいい男性が

この世にいるのだと

感銘を受けていた。

 

 

 

 

その後

彼と何度も何度も

キスする機会が訪れたけれど

あの時の

キスの感触は

今もずっと忘れられないでいる。

 

 

 

 

 

 

とうとう

イケメンが

帰ってしまった。