ハイチ情勢は、長い事政権に居座っていたヘンリー大統領が、大統領の座を降りるという曲面を迎えている。

国連安保理で、「ハイチに多国籍ミッションを派遣する」と決議されたのだが、実際に軍隊を派遣する国は見つからなかった。唯一派遣をオッケーしたのがアフリカの国ケニアで、ヘンリー大統領はケニアに向かい、派兵を直談判したのだが話はまとまらず、帰国しようとしたのだが、首都ポルトープランスの空港は「ギャング」の銃砲の射程距離内にあり、飛行機は着陸できず、やむなく飛行機はプエルトリコの空港に着陸。ヘンリー大統領は辞意を表明したのだった。

首都以外の空港に着陸すればいいと思うのだが、話はそう単純ではない。ヘンリー大統領は、選挙を実施するまでの暫定的な国家元首なのに、いつまでたっても選挙をせず、社会を良くするような政策を何も打ち出すことが出来なかった。先のモイーズ大統領暗殺事件の黒幕とも噂され、国民から非常に嫌われている存在だった。「ギャング」が暴れているから帰国できないのではなく、あらゆる層から嫌われているから、帰国せず辞意を表明したのだった。

そこで今、大統領評議会なるものをつくって選挙までの間大統領評議会が暫定的に統治するという案が浮上している。大きな政党や実業界から代表をだして、7~9人ぐらいで構成され、その統治のもとで選挙をして、勝って正統性を得た政権が多国籍軍導入を国連に要請というシナリオである。

大統領評議会にはファンミラバラス党という、米国の侵攻で政権を倒されたアリスティド大統領系の政党も加わり、割と幅広い陣容にはなっている。だが、呉越同舟の評議会であり、まとまって能率的に政権運営ができるかは未知数である。

そこで今大きく注目されているのが、「ギャング」のリーダー、ジミー・シュリジエ氏である。ヘンリー大統領があらゆる層から嫌われているので、ヘンリー政権打倒の一点で他の「ギャング」たちと交渉をまとめ、一大勢力にすることに成功。いわば「ギャング」のスポークスマンになっている。

「ギャング」とカッコつきにしているのは、彼自身は自らをギャングではなく革命家だと言っているからである。私は、ギャングを倒して秩序を作り、病院や学校を建設して、住民に清潔な水を提供するのだと。

シュリジエ氏は2つ弱点があると思う。1つは、彼自身はギャングでないにしても、彼が率いる集団は、かつてギャングだったというようなギャング的な背景を持つ集団で、統率の取れた規律ある集団とはとても思えないという点である。

もう1つは、シュリジエ氏は具体的な政策がないという点である。病院や学校を建設するというが、ではどうやって? という点が問われるのだ。そこで、もし仮に彼が政権を取ったとしても、これでは立往生は必至だろう。

そこで、彼のそばに、ブレーンのような、政策を作れる知識人が側近にいればいいのだが、彼はハイチの左翼系知識人からは非常に嫌われている。ハイチの左翼系知識人のSNSなどを見ると、彼は米国の手先とまで書かれていて、ギャングを率いて混乱の原因を作り、結果米国の注文通りに介入の口実を作るシュリジエは米国の手先に違いないというわけだ。

たとえばテレスールでは彼のことはまったく触れられない。おそらく上記のような弱点があり、評価を決めかねているというところだろう。

彼は早くに父を亡くし、貧しい境遇から這い上がってきた。バーベキューというあだ名は、屋台の仕事をしていた母が、焼いた肉を客に供していたからである。苦労する母の背中を見た息子は野心家になるという例え通り、チャンスを生かしてハイチ政治を左右する立場に今たっている。彼の今後の行動次第で、そして信頼でき能力もある人間との出会いがあれば、ハイチ社会を良い方向に向かわせることができるかもしれない。