今回は2012年公開のスピルバーグとの26作目。
リンカーンのサントラを解説します。
本作はアメリカ16代大統領、エイブラハム・リンカーンの最期の4か月を描いた映画です。
かの有名な演説はとうに昔の出来事であるので出て来ないし、
あまり劇的な展開があるわけでもありません。
アメリカの歴史に明るくない日本人にはあんまり分かり易い話とは言い難いです。
私はこの映画を観た後にアメリカ史の本を購入しました。
全くリンカーンというのは素晴らしい理念を持った大統領として描かれていますね。
この理念の欠片でも現大統領にあったら今の地球は今よりも随分住みやすい星であったろうに・・・。
音楽ですが、今作はとにかくクラシカルです。
ライナーノートの言葉を引用すると、偉大な人物を讃えた交響詩です。
ジョン・ウィリアムズと聞いて思い出す様なスペクタルさは皆無です。
演奏はアメリカの名門ビッグ5の一つ、シカゴ交響楽団が担当しています。
主要なテーマは3つありますが、「リンカーンのテーマ」とかではなく、
もっともっと抽象的です。
ライナーノートの解説を引用しつつ強いて名付けるとするならば、
・人権思想のテーマ
・理念のテーマ
・逡巡のテーマ
でしょうか。多分。
全然ピンと来ませんね。
これはもはやいつもの感じで分析するのは無理な音楽のような感じがしてきましたね。
というわけですので、このサントラは場面を思い出して聴くというよりは、
純音楽として鑑賞する態度で臨むのが正しいのかもしれません。
考えるのではなく、感じる音楽です。
しみじみ良い曲揃いではあります。
座して聴きたいアルバムです。
味わいましょう。
楽曲解説
収録曲は時系列順ではないです。
1.国民の家
理念のテーマがクラリネット独奏で静かに奏され、曲が始まります。
いや、曲というより本アルバムの演奏が始まります。
これが頭に入っているあたりからも本作の曲作りの姿勢が伺い知れます。
次第に曲が盛り上がり、リンカーンの偉大なる理念が示されます。
後半は人権思想のテーマです。
トランペットでいかにもアメリカ的なパッセージが奏され、曲が終わります。
2.修正条項の意義
本作の話の軸、合衆国憲法の修正条項。
つまりは端的に言うと奴隷制の廃止条項です。
この意義について崇高に演奏されます。
とかく、今作の音楽はアメリカの良心を煮詰めたような音楽になっています。
間違っても最近の国際ニュースにあてようとは思えない音楽です。
3.議員票の獲得
ここで少しコミカルな音楽が挟まれてます。
ヴァイオリンというか、フィドルでカントリー的な音楽が奏でられます。
修正条項を可決させるべく、奔走する模様です。
4.アメリカ的な手続き
最後の採決のシーンです。
クラリネット独奏による人権思想のテーマから始まり、穏やかに曲が進行していきます。
やがてホルンにより力強く同主題が奏され、感慨深くピアノ・ソロに引き継がれます。
5.北軍と南軍
ピアノ・ソロによる逡巡のテーマです。
というより、逡巡のテーマは常にピアノ・ソロです。
黒人虐殺を扱った映画、ローズウッドを彷彿とさせるメロディラインです。
6.何人に対しても悪意を抱かず
事実上の本作のテーマ曲です。
人権思想のテーマのコンサート・バージョンです。
タイトルは南北戦争終結後にリンカーンが語った言葉です。
某現大統領の口からは絶対に発せられる事の無いであろう崇高な言葉です。
7.解放の喊声
南北戦争時代の流行歌との事です。
いかにもアメリカ軍楽隊的な曲調です。
8.南軍派遣団/夢の光景
静かで重厚なハーモニーが奏でられ、そこにトランペット・ソロが乗っかってきます。
プライベート・ライアンを彷彿とさせる響きです。
全体的に悲壮的な曲調となっています。
9.父と子
リンカーンと息子ロバートとの会話です。
ロバートは出征する旨を父に伝えますが、父は穏やかにその決意を受け止めます。
10.ホワイトハウスへの競走
このトラックはジョン・ウィリアムズの作品ではなく、
アメリカ民謡をジム・テイラーという編曲家がカントリー・ミュージックに仕上げたものです。
11.法の下の平等
クラリネット独奏nによる人権思想のテーマ。
トミー・リー・ジョーンズ扮するスティーブンスが自己の理念を曲げてでも修正条項を通そうと決意するシーンです。
後半は理念のテーマ。
12.解放の呼び声
ヴァイオリン・ソロによる人権思想のテーマ。
崇高に奏された後、解放への鼓動ともいえるビートが朗々と刻まれていきます。
最期はホルンのソロで崇高に締めくくります。
13.悲歌
死屍累々の戦場の様子。
トランペットの掛け合いで描写されます。
後半は弦楽によるレクイエム。
14.ウィリー・リンカーンの想い出
11歳にして腸チフスで世を去った息子ウィリーを偲ぶ曲。
後半は逡巡のテーマ。
15.1865年4月9日、アポマトックス
タイトルは南北戦争終結の時と場所です。
ピアノで終戦の安堵感が奏でられます。
16.ピーターセン・ハウスとフィナーレ
エンディングです。
承知の通り、リンカーンが銃で暗殺されます。
ピーターセン・ハウスは撃たれたリンカーンが運ばれた、現場近くの家。
人権思想のテーマが穏やかな弦楽で奏されます。
次に同主題がホルンで力強く奏され、次第に盛り上がりと共にエンド・クレジットへ。
次に理念のテーマ。
最後にトランペット・ソロを交えつつ、かつてのアメリカの崇高さを讃えるかのような曲が展開される聴き応えたっぷりの交響詩となっております。
最後は逡巡のテーマでリンカーンの死を悼み、締めくくられます。
17.何人に対しても悪意を抱かず(ピアノ・ソロ)
人権思想のテーマです。
穏やかで素晴らしいアレンジです。
ホワイトハウスにエンドレス・リピートで流してやりたいですね。
以上です。
スピルバーグ次作のブリッジ・オブ・スパイは30年ぶりにジョン・ウィリアムズが音楽を担当しなかった映画。
ジョン・ウィリアムズとの次作はBFGです。


