もういい。これ以上見たらおかしくなるから。
と思ってもまた、見てしまった。
夜更けの桜に女が独り。
ただそれだけの風景が不眠症に拍車をかける。
絵の傑作は、ある意味ささやかな犯罪だと思う。
葛飾応為。
彼女の絵を見て僕の浮世絵の常識は覆されたが、その一つ『夜桜美人図』がけさ日曜美術館で詳しく紹介されていた。来週の夜またやる。
技も凄いが感覚が只者ではない。
いやいや、やはりただただ溜息が出るんだから。
応為の『夜桜美人図』。
この絵は文字通り夜と桜と女をめぐる絵だが、それは光と命をめぐる絵とも言えると僕は思う。
それは絵でありながら、物語で、哲学で、踊りである。
光と闇が露わにする肌はしっとりとして香りまで描かれている。その香りは確かに女の香りだが、柔らかな甘い香りと言うよりは、麻酔のように人を夢界に連れ去るようでもあり、この香りと一緒なら今生の世を捨てても良いかというような魔をも孕んだ香りにさえ見える。危ない。
その女は、マリア様とも違う、かといってガルボやディートリッヒの感じとも違う、楊貴妃でも卑弥呼でも、もちろんない。僕は男だが妬けて好かない。夜と黄昏と暁を同時にしたような光で肌が白くなった女なのである。
樹木の影から視界に飛び込むのは満天に瞬く星。それらは一等星や二等星という光の強弱まで克明に描かれていて、テレビカメラのおかげでそんな細部まで見えたが、その星々の光の一点一点がまた、白く青く赤くなって、命の生まれ滅びを輝いている。本当は幽かなはずのロウソクだけが一際を燃やし尽くすように激しく揺れる。しかし女は星なんか見ない、燃え上がるロウソクも見ない。何も見ないで、ただ何かに見られているだけ。そんな佇まいが美しすぎて心に毒、、、。
絵の鬼から譲り受けた美の遺伝子は応為の内部の「おんな」に結びついて変容し、狂気とさえ愛を紡ぐ美意識に発展したのか。彼女の絵は脳の深みまで誘惑して夜の悩ましさを増大する。魅入ったらさいご、眼に焼き付いて眠れなくなる。
今日は紹介されていなかったと思うが、僕は『吉原格子の図』も最高だと思う。
遊郭の格子。その向こうに光が溢れ、花魁や遊女たちの気配がする。格子のこちらは極度の闇で、男たちは漆黒の影そのものとなって、そぞろ歩く。
葛飾応為は葛飾北斎の娘さんだ。
美の鬼は、美の魔性を生んだのか。
と思ってもまた、見てしまった。
夜更けの桜に女が独り。
ただそれだけの風景が不眠症に拍車をかける。
絵の傑作は、ある意味ささやかな犯罪だと思う。
葛飾応為。
彼女の絵を見て僕の浮世絵の常識は覆されたが、その一つ『夜桜美人図』がけさ日曜美術館で詳しく紹介されていた。来週の夜またやる。
技も凄いが感覚が只者ではない。
いやいや、やはりただただ溜息が出るんだから。
応為の『夜桜美人図』。
この絵は文字通り夜と桜と女をめぐる絵だが、それは光と命をめぐる絵とも言えると僕は思う。
それは絵でありながら、物語で、哲学で、踊りである。
光と闇が露わにする肌はしっとりとして香りまで描かれている。その香りは確かに女の香りだが、柔らかな甘い香りと言うよりは、麻酔のように人を夢界に連れ去るようでもあり、この香りと一緒なら今生の世を捨てても良いかというような魔をも孕んだ香りにさえ見える。危ない。
その女は、マリア様とも違う、かといってガルボやディートリッヒの感じとも違う、楊貴妃でも卑弥呼でも、もちろんない。僕は男だが妬けて好かない。夜と黄昏と暁を同時にしたような光で肌が白くなった女なのである。
樹木の影から視界に飛び込むのは満天に瞬く星。それらは一等星や二等星という光の強弱まで克明に描かれていて、テレビカメラのおかげでそんな細部まで見えたが、その星々の光の一点一点がまた、白く青く赤くなって、命の生まれ滅びを輝いている。本当は幽かなはずのロウソクだけが一際を燃やし尽くすように激しく揺れる。しかし女は星なんか見ない、燃え上がるロウソクも見ない。何も見ないで、ただ何かに見られているだけ。そんな佇まいが美しすぎて心に毒、、、。
絵の鬼から譲り受けた美の遺伝子は応為の内部の「おんな」に結びついて変容し、狂気とさえ愛を紡ぐ美意識に発展したのか。彼女の絵は脳の深みまで誘惑して夜の悩ましさを増大する。魅入ったらさいご、眼に焼き付いて眠れなくなる。
今日は紹介されていなかったと思うが、僕は『吉原格子の図』も最高だと思う。
遊郭の格子。その向こうに光が溢れ、花魁や遊女たちの気配がする。格子のこちらは極度の闇で、男たちは漆黒の影そのものとなって、そぞろ歩く。
葛飾応為は葛飾北斎の娘さんだ。
美の鬼は、美の魔性を生んだのか。