今夜は虫の声がすこし華やかに聴こえる。

季節の変化に気がつくのは、たいてい夜だ。
変化を感じると、すこしうれしかったりする。

少しの時間、目を閉じてみる。
ただそれだけで、胸のなかは広くなる。

いろんなことを思う時間がしばらく、
やがて言葉たちが、かすれて、遠のいていったら、
もっともっと胸のなかは広くなる。

耳からはいってくる音は、どんどん微細になって、
胸のなかで散らばって、うごめきたってゆく。

閉じた目のなかの空間は、黒いけれど暗くはない。
黒の向こう側に、広がり続けてゆく広い広い空間がある。

目が捉える世界と耳がすくいあげる世界は、どこかちがう感じがする。

感覚にとって、世界はひとつではないのではないか、と思う。