先週26日の夜。ルクセンブルク大使館から招いていただき、ダンス作品を上演しました。
作品は、来日中した現代美術家David Brognon、Stephany Rollin 両氏とのコラボレーション。この5月から6月にかけて制作したものです。
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アーティストFB
大使館FB
ルクセンブルクは昨秋の招待公演やワークショップでお世話になった国。新たな出会い関わりを用意していただけて、心から感謝しています。
さて。
『Dance of the dead』
これが今回のタイトルでした。
両国関係者70名あまりの方の視線をいただいて上演したパフォーマンスは、客席や天井などから複数のハイビジョンカメラでライブ撮影され、DavidとStephanyの両氏によって映像作品として再構築の作業を行う予定です。
エキサイティングな作業を経て、彼らとはとてもフレンドリーな関係が出来ました。彼らは興味深いプロポーザルを提起し、最後までダンスの創作を任せて静かに応援してくれました。信頼感を抱きました。
この作業は、いま構想中の新作(秋に上演予定)にも反映しそう。
以下、創作記録より断片抜粋。
~~~~~~~~~~~
■インタビューをへて、僕は彼らの明快な創作姿勢に惹かれた。旅をして興味ある個人を取材し、出会いの痕跡のように作品や映像をのこす。
初対面。どちらかがどちらかの作品に心奪われる前に出来ること、出会いがしらに力をぶつけ合う機会は今しかない。そんな作業をしたかった。
彼らは僕のいくつかのダンス記録から、ある種の死生観を読み取ろうとした。そして、そこに日本の伝統的な身体観を重ねて新たなダンスの創作をして、彼ら自身が同じ題材で創作したビデオ作品と同時展開するインスタレーションに仕上げる案を提案した。
■『死の舞踏(ダンスマカブル)』は、中世ヨーロッパに流行した寓話や絵画の主題でもあるけれど、その背景にはペストをはじめ様々な世相変化がある。死にまつわる芸術や哲学は、時代の波のうねりとしばしばリンクするし、それは魂の内部にまどろむ実存の問題に関わっているのではないかと、興味をもった。
音楽にも同じ『死の舞踏』を使用。フランツ・リストの難曲だ。急速なテンポで半音階を多用して限りなく何かが崩れてゆくような、嵐のような音楽。これをループして繰り返すことで時間の感覚に歪みが生じ、さらにダンサーの背後にはランダムにずらした映像が淡い光を発生させる。床にも反射しながら。
Davidが制作した映像は、金色の砂上を走りさまよう足。これを複数のモニターでStephanyがコントロールして光のリズムを演出する。
連動する4つの映像、4回ループする音楽、そして40分のソロダンス。踊る身体の足には、アントナン・アルトーの言葉が刺青のようにドローイングされ、ダンス/インスピレーションが呼び起こされる。
■死をグロテスクに捉えたくはなかった。骸骨が禍々しく踊る中世の図とは異なり、誰もが等しく迎える死を、ひとつの旅立ちと見たてて振付を考えた。
衰弱、病、狂気、死。
それらは人生半ばを越えて、命の灯火が消える瞬間に多々出会いながら、急速に身近になってゆく。自身の日常にも例外ではない。さらにあの震災をはじめ、いま僕らは変化の渦中にある。そんななかでのテーマ。
中世ヨーロッパの死生観に、日本での平安末世思想から室町能楽、江戸末期の「ええじゃないか踊り」、現在いまを見つめる脳裏に過去の歴史へも興味を膨らませながら想を練った。
Davidが持ち込んだアルトーのテキストも、それらの一つだった。アンデルセンの童話に赤い靴が狂気の舞踏を伝染させるものがあるが、その赤い靴のように、僕は言葉を足に纏う幻想を抱いた。
アーティストは靴のようなフォルムを僕の足に刻印した。
内部から噴出する生に対して、死は外側から舞い降りる。病や狂気のように。愛の苦楽のように。
さまざまな想像を巡らせる機会となった。
肉体に眠るDNAの記憶を呼び覚ますようなダンスをしたい、そんな新しい課題を、今回は得た。
肉体は死者から受け継いできた器。そう思う。精神もまた一代の営みではない。生きている私は、死と未生を繋いで今生に在るのでは。
だだっ広い宇宙のひろがりのなかで、生は死と、死は生と、ダンスをし続ける。日と月のように、光と闇のように、破壊と再生のように、求愛のように。
ダンスは戯れ、戯れは時や空間の発生原理だと想う。
「死」を巡る思考を膨らませる機会を得たのは、幸いだった。
■text for the dance
夜の闇。
足。
走る足。つまづく足。倒れたままの、もつれた足。
金色の砂漠。
嵐。
影。
停止する動き。
呼吸。
遅い歩行。
痙攣。
転倒。
とても遅い転倒。
鼓動。
あえぎ。
手の震え。
肋骨。
立ち上がる。
転倒する。
立ち上がる。
転倒、転倒、転倒、永遠。
人間は死後、大気になって蘇る。
そして、空の光のなかに消える。
櫻井郁也・公演サイト
作品は、来日中した現代美術家David Brognon、Stephany Rollin 両氏とのコラボレーション。この5月から6月にかけて制作したものです。
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アーティストFB
大使館FB
ルクセンブルクは昨秋の招待公演やワークショップでお世話になった国。新たな出会い関わりを用意していただけて、心から感謝しています。
さて。
『Dance of the dead』
これが今回のタイトルでした。
両国関係者70名あまりの方の視線をいただいて上演したパフォーマンスは、客席や天井などから複数のハイビジョンカメラでライブ撮影され、DavidとStephanyの両氏によって映像作品として再構築の作業を行う予定です。
エキサイティングな作業を経て、彼らとはとてもフレンドリーな関係が出来ました。彼らは興味深いプロポーザルを提起し、最後までダンスの創作を任せて静かに応援してくれました。信頼感を抱きました。
この作業は、いま構想中の新作(秋に上演予定)にも反映しそう。
以下、創作記録より断片抜粋。
~~~~~~~~~~~
■インタビューをへて、僕は彼らの明快な創作姿勢に惹かれた。旅をして興味ある個人を取材し、出会いの痕跡のように作品や映像をのこす。
初対面。どちらかがどちらかの作品に心奪われる前に出来ること、出会いがしらに力をぶつけ合う機会は今しかない。そんな作業をしたかった。
彼らは僕のいくつかのダンス記録から、ある種の死生観を読み取ろうとした。そして、そこに日本の伝統的な身体観を重ねて新たなダンスの創作をして、彼ら自身が同じ題材で創作したビデオ作品と同時展開するインスタレーションに仕上げる案を提案した。
■『死の舞踏(ダンスマカブル)』は、中世ヨーロッパに流行した寓話や絵画の主題でもあるけれど、その背景にはペストをはじめ様々な世相変化がある。死にまつわる芸術や哲学は、時代の波のうねりとしばしばリンクするし、それは魂の内部にまどろむ実存の問題に関わっているのではないかと、興味をもった。
音楽にも同じ『死の舞踏』を使用。フランツ・リストの難曲だ。急速なテンポで半音階を多用して限りなく何かが崩れてゆくような、嵐のような音楽。これをループして繰り返すことで時間の感覚に歪みが生じ、さらにダンサーの背後にはランダムにずらした映像が淡い光を発生させる。床にも反射しながら。
Davidが制作した映像は、金色の砂上を走りさまよう足。これを複数のモニターでStephanyがコントロールして光のリズムを演出する。
連動する4つの映像、4回ループする音楽、そして40分のソロダンス。踊る身体の足には、アントナン・アルトーの言葉が刺青のようにドローイングされ、ダンス/インスピレーションが呼び起こされる。
■死をグロテスクに捉えたくはなかった。骸骨が禍々しく踊る中世の図とは異なり、誰もが等しく迎える死を、ひとつの旅立ちと見たてて振付を考えた。
衰弱、病、狂気、死。
それらは人生半ばを越えて、命の灯火が消える瞬間に多々出会いながら、急速に身近になってゆく。自身の日常にも例外ではない。さらにあの震災をはじめ、いま僕らは変化の渦中にある。そんななかでのテーマ。
中世ヨーロッパの死生観に、日本での平安末世思想から室町能楽、江戸末期の「ええじゃないか踊り」、現在いまを見つめる脳裏に過去の歴史へも興味を膨らませながら想を練った。
Davidが持ち込んだアルトーのテキストも、それらの一つだった。アンデルセンの童話に赤い靴が狂気の舞踏を伝染させるものがあるが、その赤い靴のように、僕は言葉を足に纏う幻想を抱いた。
アーティストは靴のようなフォルムを僕の足に刻印した。
内部から噴出する生に対して、死は外側から舞い降りる。病や狂気のように。愛の苦楽のように。
さまざまな想像を巡らせる機会となった。
肉体に眠るDNAの記憶を呼び覚ますようなダンスをしたい、そんな新しい課題を、今回は得た。
肉体は死者から受け継いできた器。そう思う。精神もまた一代の営みではない。生きている私は、死と未生を繋いで今生に在るのでは。
だだっ広い宇宙のひろがりのなかで、生は死と、死は生と、ダンスをし続ける。日と月のように、光と闇のように、破壊と再生のように、求愛のように。
ダンスは戯れ、戯れは時や空間の発生原理だと想う。
「死」を巡る思考を膨らませる機会を得たのは、幸いだった。
■text for the dance
夜の闇。
足。
走る足。つまづく足。倒れたままの、もつれた足。
金色の砂漠。
嵐。
影。
停止する動き。
呼吸。
遅い歩行。
痙攣。
転倒。
とても遅い転倒。
鼓動。
あえぎ。
手の震え。
肋骨。
立ち上がる。
転倒する。
立ち上がる。
転倒、転倒、転倒、永遠。
人間は死後、大気になって蘇る。
そして、空の光のなかに消える。
櫻井郁也・公演サイト