白いリムジンは疾走する棺桶。酒、タバコ、芝居、男と女、そして夜。そう、フランス映画だ。

カラックスが撮った、ときいて、ウズウズしていた。やっと観てスッキリ。しかし、すぐにもう一度観たくなっている。

「ホーリー・モーターズ」Holy Motors

えげつない程にこれは、傑作なのではないか。目眩だ。

人が人を演じて走り続ける映画。11の変身の映画。11の人生の映画。11の幻の映画。パリの夜が美しく錯乱している映画。

わたしは何者か。そう問いかける間もなく、しかしされど、そう問い続けながら、人は何者かを演じ、刻一刻の役は幕を降ろし、次の幕が上がり、永遠の演劇が続いてゆく。フーガのように。

映画のなかに映画がある、演技のなかに演技がある。人生のなかに人生があるように。

ドニ・ラバンの芝居に唸る。その身体にまた唸る。パフォーマーには手本だ。あの顔、あの手、いや、あの背中は、凄い。花を喰らう男。

時の万華鏡に迷いこんだような、陶酔と疲労、やがてくる夜明けの予感。

観終わって早速、電車を乗り過ごしちゃった。心地よく僕は、たぶらかされていた。