憧れた人がまたひとり、亡くなった。新藤兼人監督だ。

シェークスピアさえ通読できなかった高校1年、ほんと初めて読み切り感涙した脚本が氏の『愛妻物語』だった。
ここから出発して一つの世界が創られてゆくんだ。設計図としてのシナリオ、そこに置かれた言葉たちは、完結しない。来るべき演技や映像や音楽を待ち望むかのように静かで開かれていて、ワクワクした。可能性、予感、そんな感覚がぴったりだった。
『裸の島』の衝撃も忘れ難い。二人だけの登場人物、その営みがひたすら映る。虚実の境い目が不確かになるほど演技はリアル、映像は淡々。セリフも無い。
エモーションは後に残った。何年も経って、鮮やかに思い出した。

100歳。最期まで創作意欲みなぎるままに生ききられたのだときく。