悲しい。本当に、悲しい。ピナ・バウシュさんが亡くなられた、という知らせにかなりショックを受けている。
周知のとおり、ダンスの革新者のみならず、その全ての仕事を魂の再生に賭けた人だ。ニュースがあった日、7月1日のクラスでは、彼女を偲んで話をした。ダンスの歴史が、求めてきたことについて、果たし得ていない希求について。彼女のダンスがくぐり抜けて来たであろう時代の痛みや夢や挫折や不条理や希望に関して。僕らが生きている、この時の流れや世の中の哀歓をめぐって・・・。
フェリーニの映画「そして船はゆく」における盲目の王女役で、はじめてバウシュさんの存在感に触れ驚愕した。1986年に観たご本人の踊り(カフェ・ミューラーでのソロ)は、いまだに焼き付いて離れない。彼女の舞台に出会うたび、泣いた。いらだちを憶えたり、やるせなく腹を立てたこともある。どんどん長大になってゆく作品にとまどいを感じたり、そこに展開されるレアリテに向き合いきれるかどうかわからず、観ることを躊躇することさえあった。この人のタンツ・アーベントは、劇場に何かを観に行くというよりは、まるで生身の誰かと直接会いにゆくような感じがあった。いま、多くを書くことはできないけれど、ダンスが、人間の根源に触れる営みだということを、単に美の形式ではなく、いま生きている体験すべてのなかから、どうしようもなく沸き上がりこぼれだしてくるパッションの生々しい姿なのだということを、絶えず思い出させてくれたのは彼女の作品群だった。勇気や指針を、もらった。
癌が発見されて、わずか5日だったのだと、新聞にある。シンプルなドレス、飾り気のない微笑。あの姿は僕の中で、ずっと生き続けるんだと思う。心底ご冥福を祈る。そして彼女に対して、感謝の念があふれてならない。