アネット・メサジェの展覧会。彼女の作品と過ごしながら、冬を思う。肌を刺す風が冷え込めば冷え込むほどに、空は青く冴え、くっきりとした太陽が、そのカタチを明らかにする。
作品たち。おびただしい矢、白く沈黙する小部屋、うつろな機械じかけの運動。それらのなかには、編み物、縫いぐるみ、ドローイング・・・。手の愛着から、触れる愛着から、生み出されたおびただしい存在物たちが供犠のように、じっとある。まず痛ましさに、ひるんだ。しかし、あえて立ち止まり、立ち止まることによって内部に向き合おうとする時、作品たちもまた、内側の息を私たちに差し出し始める。ひんやりとした気配の向こう側から聞こえて来る声は熱を帯びているし、時にドキッとするような色も香る。”casino"(2005年ヴェネチアビエンナーレのグランプリ作品)という作品の一部があった。薄闇の部屋がふたつ、つながっている。子宮構造だ。赤のシルクが微風をはらんで波うち、いつしか空間いっぱいにひろがってゆく。佇むほどに、大きくうねり狂う赤が迫る。気がつけば、それは自分自身の心の奥にある声に重なっている。美は、沈黙と、内的な対話をプレゼントしてくれる。そういえば冬は、親しい人や自ら自身とじっくり向かい合う深い対話の季節でもあった。雪や氷やからっ風のなかで、草木のように、人もまた新しい種をあたためてゆく。