アルツハイマー病になってしまって、記憶が断片的になった父に対して、息子が、父が愛した音楽を通じて、その記憶の喪失を留めようとする。そんな、実話がベースになっているという映画『父と僕の終わらない歌』(小泉徳宏・監督/三嶋龍朗・脚本)だ。
横須賀市が舞台となっている作品だけれども、予告編段階から、ちょっとよさそうかなと、気になっていた作品である。
その父親役が寺尾聰で息子が松坂桃李。さらには、夫のアルツハイマーに悩みながら息子とともに対処していく女房が松坂慶子。この松坂慶子が、ちょっと小太りになったけれども、こぎれいな伯母さんという雰囲気が、どこかにいそうなリアル感もあって悪くはなかった。松坂慶子は、ただキレイなだけだった若い頃よりも、こうして伯母さん(年齢的には、もはや婆さんか…苦笑)になってからの方が、いい味が出ているような気もしている。
アルツハイマー病とは、脳の機能が劣化していく病気で、記憶が断片的になって過去と現在が錯綜していってしまうという症状が出るという。そのあたりを寺尾聰が、かなりリアルに表現していたことで、映画そのものにも臨場感が出た。
かつて、レコードを出したいと思っていたくらいに音楽好きで歌自慢だった、自称"横須賀のスター‟でもあった親父。そんな親父の記憶が曖昧になっていく中で、息子はかつての親父の夢を実現させてあげたいと奔走する。
今の時代らしく、SNSなんかも活用しながら、ライブをやれば、一部で圧倒的な人気の親父の存在を広く告知していこうと頑張る。それがいわゆるパズる形になるのだけれども、その一方で誹謗中傷も乱れ飛ぶ。そんな苦労もある。
また、この映画のもう一つのテーマとしては息子が同性愛嗜好者だったということもあった。それを10年前に両親にカミングアウトしていて、両親もそのことを引きずっていたというところも、もう一つの作品のキーポイントとなっていた。
映画にとって、普遍のテーマと言ってもいいのが家族なのだが、この作品はまさに、その家族を描いたものだった。家族の絆とか、そんなものではなく、むしろ家族の腐れ縁とでもいおうか、離れたくても、離れてはいけない家族という存在。そんな所が、しっかりと抑えられていたのかなぁとは思う。
ストーリーとしては、アルツハイマーの親父に、息子が、いかにライブコンサートを成功させてあげるのかというところに向かっていくのだけれども、そこにトラブルも出てくる。それをクリアしていく、というのはある程度、既定のストーリー構成ともいえるのだろう。そうした中で、それに協力していく商店街の幼馴染の仲間ともいえる石倉三郎と三宅裕司が何となくよかった。さらには、老人介護施設の職員の森三中の大島美幸も、こんな介護士はおるやろな、と思わせるリアル感だった。
トータル、キャスティングのリアルさで見せてくれた映画だったかなというのが、鑑賞後の感想でもあった。
ただ、老後のボケということに関しては、近い将来自分の身にも降りかからないとは言えないわけである。そういう意味では、シビアに捉えなくてはいけないテーマでもあるのだろうなと、70歳にちょっと前のボクとしても、少しゾクッとしていた。




