僕の同級生に、西川ユウジという誠実な奴がいる。同じ宇治田原町在住だ。
ユウジの父も誠実で、ただ、誠実なくせに、名前だけは『なら夫』という。
何でも笑えた中学生の僕らは、なら夫という名前がとても面白く思い、ユウジの事をなら夫と呼び始めた。
それが中学2年の頃なので、もう3年では、クラスの男子のほとんどが、ユウジの事をなら夫と呼んでいた。
ユウジも、なら夫と呼ばれたら『なに?』と返事をしていた。
ある秋の事。
僕は半分アホで、半分天然だったせいか、友達のなら夫の家に電話をした。
もちらん昭和の家電である。
呼び出し音の4コール目で、西川家の誰かが電話に出た。
『はい、西川です。』と出たのは紛れもなく同級生のなら夫の声だった。
僕『おお、なら夫か俺や!なら夫、明日の事なんやけどな、、、』
なら夫『明日て何や?』
僕『学校の事やん!』
なら夫『学校?俺、なら夫やぞ!』
僕『うん、なら夫やろ?』
なら夫『お前だれや?』
僕『俺やんけ、なら夫!何言うてんねん、なら夫!』
なら夫『俺、なら夫やぞ!』
僕『だから、なら夫やろ?』
と言った僕の背中が冷んやりとした。もしや、本物のなら夫様?
僕は恐る恐る聞いてみた。
僕『ユウジ君のお父さんですか?』
なら夫『だから、さっきから、なら夫や言うとるやんけ!』
僕『す、すいません!あの、ユウジ君おられますか?』
僕は、ユウジの父なら夫に、
なら夫なら夫と連呼していたのだ。
なら夫に勉強なら夫。
なら夫なら夫、おなら。
話を戻そう。
なら夫様は、どう思ったのだろう。息子の友達に、なら夫呼ばわりされて。
しかも呼び捨てで。
ユウジ『お前も間違えたんか?俺の声とおとんの声、しょっちゅう間違われるねん!』
僕『そうなんか、なら夫!紛らわしいし、父なら夫です、て今度から電話に出るように言うといて!』
ユウジ『ほんなら俺出た時は?』
僕『普通になら夫です、で、ええやろ?おとんだけ、父なら夫です、て出るように!』
ユウジ『アホか!父が苗字で、なら夫が名前みたいやんけ!』
この時の用件は忘れたが、次の日、父なら夫事件は、クラスを賑わわせたのは、言うまでもない。
嵐山あおや